函館が開港して間もない明治初期に創立した女学校。国の重要文化財にもなった学舎に、今も生徒たちの姿がある。
「五稜郭」に近い、市電通り沿いにある赤煉瓦の正門を入り、松並木を抜けると、淡いピンク色の木造校舎が見えてくる。
東北以北で初の女学校として開校した、創立151年の遺愛学院本館。今年で築118年になり、「北海道における木造学校建築の代表作」として、国の重要文化財になっている。
正面玄関に用いられた古代ローマ建築様式であるトスカーナ式円柱の白色や窓枠の白色が、外壁のピンク色に映え、可憐な雰囲気を醸し出す。
磨かれた、深い茶色の廊下や天井、扉、円形階段--。木のぬくもりに包まれ、タイムスリップしたように感じる校舎は、遺愛女子中学・高校の生徒たちが学ぶ教室や自習室、校長室、事務室としていまも使われている。
設計は、立教学校(現・立教大学)校長で米国出身の建築家ジェームズ・ガーディナー。外壁は当初、深緑色だったが、クリーム色などを経てピンク色になった。
床はベイマツの無垢材が中心と見られ、廊下の幅も天井の高さも3メートル超と広々としている。当時最新設備だったセントラルヒーティングの暖房器具や、オイルランプ式のシャンデリアがいまも残り、「理想の教育環境」を求めた先人たちの情熱がうかがえる。
2018年から6年間にわたり大規模な保存修理工事を実施。床板などに全て番号を振って解体後に元の位置に張り直し、壁は漆喰などを撤去して断熱材と合板で補強。教室になっていた講堂を、間仕切りを撤去して復元した。
歴史を刻んだ校舎での学生生活が進学理由の一つとなったという高校2年の柳川桜子さん(17)は、一般公開などで案内役となる「文化財コンシェルジュ」を務めている。「建物の歴史や構造など、知識を増やしながら校内を歩けるのがとても楽しい」と話す。
映画やCM撮影の舞台にもなり、ウェディングフォトの撮影のために卒業生が頻繁に訪れる。
中学・高校の井本晴雄校長(61)は「120年近く存在する校舎の歴史を肌で感じながら過ごしてほしい」と見守っている。(大石裕美、写真も)
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DATA 設計:ジェームズ・ガーディナー |
学校法人遺愛学院(☎0138・51・0418)には、貴重な建築がほかにもある。明治時代の米国建築様式を取り入れた「旧宣教師館」(ホワイトハウス)は2001年に国の重要文化財に指定。礼拝を行う「大講堂」も国の登録有形文化財となっている。「大講堂」は一般公開で見学可能で、「旧宣教師館」は改修後に公開予定。