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太宰府天満宮仮殿(福岡県太宰府市)

森を屋根に 歴史つなぐ「最先端」

改修中の本殿の前に立つ仮殿。年の瀬の境内に受験生の姿が目立ってきた

 太鼓橋を渡り、朱塗りの楼門(ろうもん)をくぐると、目の前に「森」が浮いていた。近づくと、内部の華やかな御帳(みとばり)などが見え始める。

 学問の神様、菅原道真をまつる太宰府天満宮の仮殿。道真の没後1125年にあたる式年大祭(2027年)に向けた本殿の大改修中、参拝者を迎える約3年間の期間限定の建築だ。

 前傾した屋根の一番高い部分は地上から約8メートル。ゆるやかに弧を描く約250平方メートルのかまぼこ型で、クスノキやウメ、ススキなど約60種類の四季の草木や花が植えられ、周りの鎮守の森に溶け込みながら存在感を放つ。

 第40代宮司の西高(にしたかつじ)信宏さん(45)は、武蔵野美術大学美術館・図書館(東京都小平市)の空間の作り方に感銘を受け、手掛けた建築家の藤本壮介さん(54)に設計を相談した。西高辻さんは「桃山時代に再建された御本殿は当時の最先端の様式を採用した。仮殿も令和だからできる建築に挑戦したかった」と振り返る。

 現地を訪れた藤本さんは悩んだ。現代的な材料のガラスやコンクリートは、神聖な境内に釣り合わない。球体状や木組みなど100近い模型を造って試行錯誤の末に生まれたのが「森を屋根にする」アイデアだった。

 季節の移ろいを感じられる案に、西高辻さんは心を動かされた。確信が持てずにいた藤本さんは、西高辻さんに背中を押される形で決めたという。

 境内には樟(くす)が100本余りそびえ、樹齢千年以上のものもある。仮殿の解体後、屋根の植物を境内に迎えれば、次の千年を生きるーー。「3年間の短いプロジェクトが長い歴史をつなぐ重要な意味を持つと分かり、震えました」と、藤本さんは打ち明ける。

 屋根は丸く、薄くすることで軽やかな浮遊感を出した。全体の色は黒で統一し、森や内部の装飾品を鮮やかに際立たせた。森が浮かぶ様子は、道真を慕って梅の木が一夜にして京都から飛んできたという「飛梅伝説」にも着想を得ている。

 道真の御神霊が本殿に遷(うつ)され、仮殿が解体されるまで約5カ月。解体後、屋根の植物は境内に移され、124年ぶりの大改修を終えた本殿が姿を現す。

(増田裕子)

 DATA

  設計:藤本壮介建築設計事務所
  階数:地上1階
  用途:仮殿
  完成:2023年

 《最寄り駅》:太宰府

 

建モノがたり

 太宰府天満宮内案内所からすぐの参道にある寺田屋(☎092・922・4064)では、参道名物の「梅ケ枝(うめがえ)餅」や飛梅伝説にちなんだ「飛梅漬」を購入できる。店内外に喫茶スペースも。午前9時~午後5時半。4~12月の第1、第3水曜休み。

2025年12月23日、朝日新聞夕刊記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください。