山梨・河口湖近くにピラミッド型や洞窟のような建物が立つ。そこは、自然と芸術が調和した「異界」だった。
細かな木彫りが美しい巨大な門が出迎えてくれた。染色家・久保田一竹(1917~2003)が、インドの古城に使われていた扉を自ら買い付けたものだという。
ピラミッド型の本館に入ると、天窓からあふれる光に照らされた着物の数々が飛び込んでくる。室町時代に栄えた幻の染め物「辻が花」を、独自の技法で現代によみがえらせた「一竹辻が花」の作品群だ。
生地いっぱいに絞り染めの凹凸や濃淡、刺繡(し・しゅう)が施された花模様が広がる。「先生が志すところは、『自然』でした」。弟子だった宮原作夫名誉館長(73)はこう思いをはせた。
30年余り前、久保田は朝日に照らされた「赤富士」の姿に魅了され、自らの作品を展示する美術館を富士を望むこの地に建設すると決めた。霊峰の姿を思い描いて建設を依頼。樹齢千年超のヒバ16本が大黒柱の役割を果たし、伝統的な木組みとログハウスの構法を組み合わせた。
60代から取り組んだ代表作のシリーズ「光響」は全80着の構想だった。1着に2年を要する。久保田が手掛けたのは44点。遺志を受け継ぎ、いまも工房で制作が続いている。
隣接する新館は、琉球石灰岩が使われ、スペインの建築家アントニ・ガウディの作品を思わせる造形だ。まさに次の世代が志をともにする様が共通している。
新館にはアフガニスタンやフィリピンなどのインテリアとともに久保田が収集した、色ガラスで模様を表現した「蜻蛉玉(とんぼ・だま)」が展示されている。
着物が「伝統衣装」となって廃れることを危惧した久保田は、海外から招いたダンサーらに着用させて作品を発表するなど様々なプロデュースを試みた。海外での評価も高く、現役作家として初めて米国のスミソニアン国立自然史博物館で個展を開催している。
来館者は年約7万人。その約6割は海外から訪れている。
取材を終えると、雲間から富士山が見えた。この先も続く大作の旅は、富士のように時代や国境を超えて人々を魅了するだろう。
(深山亜耶、写真も)
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DATA 監修:久保田一竹 《最寄り》:河口湖駅からバス |
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本館の茶房「一竹庵」(☎0555・76・8811)では庭園の「龍門の滝」を見ながらくつろぐことができる。看板商品は「抹茶と季節の和菓子セット」。京都・宇治の抹茶とともに地元和菓子店の上生菓子、富士山形の落雁(らく・がん)などが味わえる。午前10時~午後4時半(4~11月は5時まで。ラストオーダーは30分前)。