日本人の心と日本の姿を写しとめた写真界の巨匠。その郷里に溶け込む美術館に作品群が息づいている。
写真に引き込まれるというのか、被写体に射すくめられるというのか。展示室で、作品を前に何度も動けなくなった。
昭和を代表する写真家のひとり、土門拳(1909~90)。郷里の美術館は、彼の作品約13万5千点を所蔵する。
酒田市の名誉市民第1号に選ばれた土門。自らの作品を郷里に贈ったのが契機になり、83年、日本初の写真専門美術館として土門拳記念館(現・同写真美術館)が開館した。親交の深かった芸術家たちが一肌脱ぎ、彫刻家のイサムノグチは彫刻とベンチ、いけばな草月流の勅使河原宏は作庭とオブジェ、グラフィックデザイナーの亀倉雄策は銘板とチケットを、それぞれ手掛けている。
建築設計を担ったのはニューヨーク近代美術館(MoMA)の増改築や東京国立博物館・法隆寺宝物館などで知られた建築家、谷口吉生(1937~2024)。「作品の魅力を目いっぱい引き出すには、と思案に暮れたものです」。そう振り返るのは谷口が他界するまでの半世紀、ともに働いた高宮眞介さん(87)だ。いまも谷口建築設計研究所(東京都)で建築家として働いている。
建築が進む現場にも夜行列車で幾度も通い、細部に目配りをした。前面には人工池を配し、背景には自然林の丘。土門が捉えた日本文化のありようを表そうと努めた。また、外光で作品を傷めるのを避けるため、展示室は丘に食い込むかたちにして、ほの暗い空間とした。
土門作品は迫力に満ちている。「展示室の壁もつるんとした白いものでは、作品が貧弱に見えてしまう」。そこで壁面をノミで打つ、斫り仕上げとした。作業にあたる職人にそれぞれ癖がある。職人を固定して日にちをかけ、ばらつきがなく、ごつごつとした壁面にしたのだ。前に立つと、野趣に富んだ背景によって大きな作品がいっそう映える。
展示室を抜けると、庄内平野のシンボル鳥海山がそびえて見える。心中に入り込んだ土門の作品を、稜線(りょうせん)の優美な情景が包み込んでくる。
(木元健二、写真も)
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DATA 設計:谷口建築設計研究所 《最寄り駅》:酒田 |
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車で約10分のさかた海鮮市場は酒田港のすぐそばにある。市場内の「菅原鮮魚」(☎0234・23・5522 午前8時~午後6時)は日本海の魚をそろえ、調理方法の案内や持ち帰り用に箱詰めもしてくれる。市場にはすしなどを提供する食堂も。