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駒井家住宅(京都市左京区)

学者村の洋館 未来へつなぐ営み

1998年、京都市指定有形文化財になった。一般公開は金土の午前10時~午後4時(受け付けは1時間前まで。☎075・724・3115)。500円。7月第3週から8月末、12月第3週から2月末は休館。

著名な研究者たちが居を構え、愛してやまなかった京都・北白川。約100年の歴史を刻む洋館が人々の手で受け継がれている。

 銀閣寺近くの疏水(そすい)沿いを歩くと、「学者村」と呼ばれた北白川にたどり着く。

 門越しに、緑に包まれた2階建ての洋館が見える。赤色の和瓦屋根に、クリーム色の塗り壁。上げ下げ窓やアーチ窓が目を引く。

 大丸心斎橋店(大阪市中央区)や旧山の上ホテル(東京都千代田区)を手掛けた米国人建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ率いる事務所が設計した「駒井家住宅」だ。「日本のダーウィン」と呼ばれた駒井卓・京大名誉教授(遺伝学)の自宅として、留学から帰国後の1927(昭和2)年に建てられた。

 卓の妻静江とヴォーリズの妻が神戸女学院の同窓生だった縁で設計を依頼したとされる。当時、田んぼが広がる農村地帯だった北白川に、ぽつんとモダンな住宅が建った。

 玄関から居間、サンルームへ進むと、アーチ状の3連窓からたっぷり日差しが入り、風通しもいい。居間の窓際には作りつけたソファ。収納庫や引き出しが各所にあり、華美な装飾はなく、全体が機能的で健康的な空間だ。卓が静江に贈ったドイツ製ピアノが置かれている。

 客を迎える部屋のドアノブは紫色ガラス、私的な空間は無色ガラスと分けられ、夫妻の身長に合わせてその位置は低めだ。着物で暮らした静江のため、1階に6畳和室も。出窓の内側は障子だが、外側は上げ下げ窓にして外から洋室に見える工夫がなされている。

 2階は書斎と寝室、大文字山や比叡山が望めるベランダ。書斎の本棚には分厚い専門書や辞書、洋書が並んでいる。現場で管理運営業務をしている鶴見有希子さん(47)は「暮らすうえでの様々な工夫など、夫妻とヴォーリズが相談してつくり上げたことがうかがえます」と話す。

 戦後は一時米軍に接収された。夫妻が亡くなった後は企業の保養所にもなった。2002年、家族から日本ナショナルトラスト(東京都千代田区)に寄贈され、ボランティア約30人が建物や庭園の維持管理を手伝っている。

 夕暮れ。淡い黄色のすりガラスから陽(ひ)が差し込み、階段ホールを琥珀(こはく)色に染めた。来年で竣工(しゅんこう)から1世紀。次世代につなぐプロジェクトが始まる予定だ。

(阿部毅、写真も)

 

 DATA

  設計:ヴォーリズ建築事務所
  階数:地上2階
  用途:住宅
  完成:1927年

 《最寄り駅》:茶山・京都芸術大学

 

建モノがたり

 徒歩約1分の距離に民族学者・梅棹忠夫(1920~2010)の旧宅を使ったギャラリー&カフェ「ロンドクレアント」(☎075・286・7696)がある。落語会や音楽ライブなども。午前11時~午後5時、原則月休み。

2026年4月28日、朝日新聞夕刊記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください。