燃料電池車(FCV)の燃料スタンドは、脱炭素社会や次世代の乗り物など「未来」が感じられるランドマークだ。
徳島市にあるFCV専用の燃料スタンド「東亜合成水素ステーション徳島」の外観は、県道29号線沿いの交差点に浮かぶ「雲」のようだ。隣接する同社徳島工場でできる高純度水素を有効活用しようと、2021年に完成。翌年から営業を始めた。
FCVは、走行中に二酸化炭素を排出せず、環境に優しい次世代の電気自動車だと期待されている。ただ、普及はまだ道半ばだ。FCVと水素エネルギーを多くの人に知ってもらおうと、あえて独自性のあるデザインにした。
2台ある水素ディスペンサー自体は、ガソリンスタンドにあるものと似た形だが、特徴的なのは、その上を覆う大きなキャノピー(屋根)である。青空を背景に、軽やかに広がる形は、まさに空に浮かぶ雲のよう。
キャノピーに使われているのは、ガラスの代わりにもなる「ETFE膜」という透明なフィルム素材。日本ではまだ珍しい素材で、屋外でも劣化しづらい高い耐久性を備えながら、軽量で光を通すのが特長だ。日中はキャノピーから自然光がやさしく差し込み、夜には同社のイメージカラーの青と緑の照明に照らされ、幻想的な風景となる。その姿は枝葉を伸ばす大きな木のようにも見える。
安全性にも配慮し、万が一水素が漏れた場合でも、素早く拡散できるよう設計されている。それぞれの柱の上のキャノピーには傾斜がつけられ、中央の植栽に雨水が落ちるようにするなど、細部にもこだわった。
印象的な姿のため、「あれは何の建物ですか」と採用面接で応募者に聞かれたり、従業員が地元の人に尋ねられたりすることも多いという。
徳島工場の業務支援課長、中原遊(あそぶ)さんは「FCVについての説明はもちろん、自分たちの仕事を説明する機会にもなり、仕事に誇りを持つきっかけにもなっています」と話す。
遠くない未来にFCVが普及し、化石燃料に頼らない脱炭素社会に近づいていくーー水素ステーション徳島は、FCVへの水素エネルギーの充塡(じゅんてん)だけでなく、社会の未来像を地域に伝えるきっかけも提供している。
(朴琴順、写真も)
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DATA 設計:森下修/森下建築総研 《最寄り駅》:徳島駅からバス |
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車で約10分の場所に、「徳島県立阿波十郎兵衛屋敷」(電話088・665・2202 午前9時半~午後5時)がある。地域の人々が担い手となって継承し、国の重要無形民俗文化財となっている「阿波人形浄瑠璃」の伝承拠点で、毎日約35分間の人形浄瑠璃を上演している。一般410円。