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神谷バー(東京都台東区)

震災・空襲に耐え アップデート

浅草の名所といわれる神谷バー

和服をまとったインバウンド(訪日外国人)が行き交ってゆく。浅草1丁目1番1号。令和の風に吹かれるビルに、老舗・神谷バーは入っている。

 

創業1880(明治13)年。神谷傅兵衛が酒の一杯売りの商いを始めた。ビル完成は1921(大正10)年。音頭をとったのは2代目、傳蔵。フランスでワイン醸造技術を学んだ。当時は珍しい鉄筋コンクリート建築とした。「海外の進んだ文明を心に刻み、時代を先取りしたビルにしたかったのでしょう」。5代目の直彌さん(61)はそうみる。

 

完成2年後に関東大震災が発生。第2次世界大戦時には大空襲で、下町は未曽有の被害をこうむった。でも、このビルはしのいだ。

 

2011年秋には登録有形文化財に指定された。東日本大震災からまもない頃だ。やがて直彌さんは耐震補強工事に乗り出すことを決める。施工は丸高工業(東京)。担当した森脇泰二さん(72)は「建築士になり40年以上ですが、最も困難でした」と振り返る。

 

まず構造図が残されていなかった。X線撮影で構造を把握。エレベーターを外し、梁や床などをくまなく点検した。あちこちに焼け跡が残る。戦時中、空襲で火災に見舞われた痕跡とみられる。「よくぞ持ってくれた」と感じいった。営業終了後、早朝にかけ、手探りで進めた9カ月の工期を終え、心底ほっとしたという。

 

このビルの強みとして、太い柱が緊密に貫かれていることをあげる。「そのうえ地盤もいい。そこにしっかりと柱が立てられたことが長寿のひけつでしょう」

 

浅草寺の門前町の立地。直彌さんは「観音さまをお参りする人々を楽しませようと、昔々からアップデートされてきた土地柄。うちを名所と言って下さる方もいますが、旧跡とならず、次世代に受け継ぎたい」。30年には創業150周年を迎える。

 

名物のカクテル「デンキブラン」は度数30度。40度の「電氣ブラン〈オールド〉」もある。香り高く、ガツンとくる味わいだ。デンキは、ハイカラがたっとばれた明治時代、たいそう珍しかった「電気」に由来する。創業3年目に編み出されたカクテルだが、その配合は秘伝なのだとか。

(木元健二、写真も)

 

 DATA

  階数:地上6階、地下1階

  用途:飲食店、事務所

  完成:1921年
  最寄り駅:浅草

 

建モノがたり

徒歩まもなくの隅田川沿いに水上バス乗り場(https://www.suijobus.co.jp/cruise/asakusa/)がある。漫画家の松本零士さんデザインの船体などが目を引く。個性的な数々の橋をくぐりながら、「浜離宮」「お台場海浜公園」などに向かい、東京の今を川面から眺めることができる。