東京都青梅市に約半世紀ぶりに映画館がオープンして5年。昭和初期の建物を活用し、利用客と新たな歴史を刻む。
JR東青梅駅から住宅街を進むと、遠くの山並みや木々が目に入り、鳥が自由に飛び交っている。爽やかな青空に似た澄んだ水色の建物が目に入る。2021年6月に開館した映画館「シネマネコ」だ。
青梅織物工業協同組合の敷地内に立つ昭和初期の木造洋館で、国登録有形文化財「旧都立繊維試験場」をリノベーションした。繊維工業で栄えてきた青梅の歴史が息づいている。
中に入ると細長いロビーがあり、高さのある窓から陽光が差し込む。吹き抜けで梁(はり)の構造がダイレクトに見え、木造建築ならではの見た目が印象的だ。
窓側の壁一面には、工事で出た「木ずり」と呼ばれる幅の狭い木材が張られていた。漆喰(しっくい)の下地だったもので、廃棄されるところを手間をかけ、1枚ずつはがして活用。木のぬくもりに包まれた癒やしの空間となっている。
開館させたのはチャス代表取締役の菊池康弘さん(44)。きっかけは、経営する焼き鳥店での何げない会話だった。青梅市にはかつて映画館が3館あったが、1970年代までにすべて閉館。「また青梅で映画が見たい」という客の声が耳に残ったという。
菊池さんは開館に向け、いくつもの映画館を訪問。資金集めや配給会社についても一から教わったという。シアター内に63席ある青紫色のシートは、かつて新潟県十日町市にあった映画館「十日町シネマパラダイス」から譲り受けたものだ。「譲ってくれた方のお母様が生前、館長をしていた。閉館後も、いつか使用できればと息子さんが形見のように保存していたシートを譲っていただき、感動して泣きそうになった」と菊池さんは振り返る。
最も苦労した耐震補強では、建物の土台となっていた石を取り出し、そこにコンクリートを流し込んで基礎とした。歴史ある木造建築に新たな命を吹き込むのは容易ではなかったという。
開館から5年が経ち、地域住民にとって身近な存在となった。「いつもここで映画を見ているのよ」と友人に自慢げに話す常連客を、菊池さんはうれしく眺めている。遠方からの来館者も目立つようになった。約2年ぶりに訪れた東京都世田谷区の女性(35)は「大きな映画館で見ても、どこで見たかは覚えていない。ここなら、この空間とともに記憶に残る」と話した。
館内にはリクエストボックスがあり、併設のカフェでは常連客主催の読書会も開催。目指すのは、ただ映画を見る場所ではなく、人々の「新たな居場所」なのだ。菊池さんは「人と人がつながる場所でありたい。これからその輪をさらに広げていければ」と話す。
青梅の宝を取り戻すべく奮闘して開館にこぎつけたシネマネコは今、新たな歴史を刻んでいる。
(斉藤梨佳、写真も)
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DATA 階数:地上1階 《最寄り駅》:東青梅 |
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映画館内のきんちゃんぎんちゃんのシネマカフェ(☎0428・28・0051)では、猫形の特注パンを使った「フレンチトースト」(750円)や、「昔ながらのナポリタン」(950円)などが楽しめる。カフェ利用のみも可。【前】11時~【後】5時。【火】休み。