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奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート (奈良市)

厳粛な空間 見つめる自由

奈良監獄ミュージアムのゲート。見学は公式サイトからの事前予約を推奨している(開館は午前9時~午後5時、入館は4時まで)。大人2500円(日本在住者)ほか。敷地内はミュージアムとラグジュアリーホテル「星のや奈良監獄」に分かれて事業展開されている。

古都奈良の高台で118年の時を刻む旧監獄がミュージアムとホテルに生まれ変わった。厳粛さと美しさが共存する異色の空間が問いかけるものとはーー。

 観光客でにぎわう奈良公園近くからバスで約10分。住宅街の細い路地を抜けると、重々しい赤れんがの高い塀と建物が静かに現れる。1908(明治41)年に建てられた重要文化財の旧奈良監獄だ。

 戦後は奈良少年刑務所となり、2017年に役割を終えた後、星野リゾート(長野県)が保存・活用し、一部が4月に奈良監獄ミュージアムとして開館した。

 鉄の門から入り、まずは全体を眺める。三角屋根と尖塔(せんとう)が際立つ堂々とした赤れんが建築。1906年だけで延べ15万人超の受刑者らが積み上げたという赤れんがが、空の青や山々の緑とのコントラストの中で美しく映える。

 設計は各地の裁判所や監獄などの建築に携わった司法技師の山下啓次郎。近代国家建設を急ぐ明治政府が、刑事施設を国際標準に合わせようと、海外から先進技術を持ち込んで整えた。ミュージアムを企画、デザインしたグラフィックデザイナーの佐藤卓さんは「西洋を貪欲(どんよく)に学んだ一つの大きな結晶。冷徹な場所にもかかわらず、情緒的装飾が随所にちりばめられていて、圧倒された」という。

 「美しき監獄」。相反する二面性は、中央看守所から放射状に延びる五つの舎房の1棟「第三寮」にもよく表れている。広さ約3畳の独居房96室が左右に2層で並び、分厚い木製扉に付いた監視窓、頑丈な鍵が厳しい収容生活を伝える。

 一方で、天窓から自然光が差し込み、白壁が鮮やかに輝く。かまぼこ形をした天井の丸みも手伝い、その美しさに緊張が緩むのは、西洋に追いつこうと必死ながら、美や人権も求めた当時の創造性を今も感じるからだろう。

 展示エリアの後半は、建物の構造や行政制度の歩みを紹介。規制で釘が打てない中、壁を二重にするなどの工夫を重ねて、規律や食事、衛生などの七つのテーマで受刑者の日常が可視化されている。

 終盤は、1日のスケジュールや衣食住の決まりごとを壁一面に書いた部屋や、1人の受刑者像が格子窓の外を見つめる展示が続く。見て回るうちに、対極にある「自由の価値」を思う。佐藤さんは「厳格なルールに縛られていても、人の内面は自由でいられると考えた。同調圧力や規範が語られる現代。当たり前にある自由を見つめ直すことは大切ではないか」と語る。

 歴史的文化財を観光収益によって維持する試みでも注目される。かつて閉ざされていた監獄が、自由や社会を考え、挑戦を後押しする場所にもなっている。

(鈴江元治、写真も)

 DATA

  設計:山下啓次郎
  階数:地下1階、地上2階
  用途:博物館
  完成:1908年

 《最寄り駅》:JR奈良駅または近鉄奈良駅から直通バス


建モノがたり

 敷地内のミュージアムカフェでは建物の赤れんがと、少年刑務所時代はカレーライスが人気献立だったことにちなみ、「レンガカレーパン」を提供している。サクッとした食感とスパイシーな味が特徴。600円。午前10時~午後5時。

2026年7月7日、朝日新聞夕刊記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください。