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竹中大工道具館(神戸市)

「船底天井」が覆うホールは、可動式の仕切りで柔軟に空間が変えられ、講演会やミニ展示なども随時開催している

新神戸駅近く、六甲山の緑の中に立つ竹中大工道具館。自然と調和する建築が、職人たちの技と心を伝える。

 「竹中大工道具館」は日本で唯一の大工道具の博物館だ。竹中工務店の創立の地、神戸市中央区で1984年に開館。2014年にかつての本店と社長の邸宅があった現在地に移転した。「地上部分は平屋にし、展示室は地下に収めています。豊かな緑の環境を最大限に生かし、自然と調和する日本建築の良さを取り入れました」と館長の河﨑敦子さん。

 館内に入ると、広い空間を覆う木組みの天井がまず目を引く。ゆるやかな弧を描く「船底天井」だ。長い吉野杉を一本一本異なる角度で刻み、釘や金物に頼らず組み上げた。

 大きなガラス窓の向こうには中庭と六甲の緑が視界いっぱいに広がる。内側に柱が見当たらないこの大空間は、コンクリートの壁と、存在感を極力抑えた無垢の鉄骨材によって支えられている。職人技と現代技術が融合した建物でもある。

 足元や壁にも職人たちの技が潜む。階段は、木の年輪の中心に近い部分まであえて使った厚い板から削り出したものだ。反りや色むらが出やすい部分だが、それも自然素材ならではの表情として取り入れた。

 圧巻なのは、中庭を囲む空間に連なる左官仕上げの壁。モチーフになったのは風化した土塀という。整い過ぎた新品ではなく、時間を経て味わいを深めた姿を再現した。土にわらを混ぜた壁を塗り、乾き具合を見計らって職人が表面を削り出し、段状に仕上げたという。気の遠くなるような作業だ。「左官職人にはスタープレーヤーは必要ない、とよく言われます。この壁も、ひとりの名人ではなく、職人たちの組織力によって完成したものです」と河﨑さんは話す。

 屋根には淡路島のいぶし瓦を用いた。中央部分がゆるやかにふくらむ、丸みのある「むくり屋根」が特徴だ。入り口の大きな自動ドアも見逃せない。栗の木を「ちょうな」と呼ばれる伝統的な手おので削り、独特の表情を持たせている。「建物のあちこちに、一見地味でマニアックな職人技が隠れています。ぜひ探してみてください」

 展示の目玉の一つは、唐招提寺金堂の組み物の実物大模型だ。宮大工たちの高度な技術を間近で見ることができる。各コーナーには大工道具の歴史や種類、仕組みを紹介する約千点が展示され、収蔵品は約3万点に及ぶ。

 現在、大部分の大工道具は電動化され、建築材料も工業製品へと置き換わった。「道具」は消耗品であり、多くは使われるうちに姿を消していく。

 それでも河﨑さんは言う。「道具を見るだけで、先人たちの知恵や技、そのスピリットがよく分かります。そうした文化を伝えていきたいのです」

(朴琴順)

 DATA

  設計:竹中工務店
  階数:地下2階、地上1階
  用途:博物館
  完成:2014年

 《最寄り駅》:新神戸


建モノがたり

 新神戸駅近くのハーブ園山麓駅からロープウェーで「神戸布引ハーブ園」(☎078・271・1160)へ。所要時間10分。ロープウェー往復と入園料で2500円。土日祝と8月中は午前10時~午後8時半。9月からは平日午後5時まで。季節の花やハーブを楽しめるほか、レストランやカフェ、体験イベントも。

2026年8月25日、朝日新聞夕刊記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください。