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雪道で滑りにくい「鬼底」ブーツ

 「鬼底」と名づけられたブーツが北海道で誕生しました。ゴツゴツした迫力のある靴底は、雪道でもガッチリと地面をとらえます。雪国で「滑りにくい靴」を長年追い求めてきた開発者ならではの技術や経験、そして意外なアイデアが詰め込まれた逸品です。

 

 「雪に慣れていても、油断すると年に1、2回は転んでしまいます」。北海道を中心に作業用品店約50店を展開する「ハミューレ」(本社・札幌市)の岸本剛士さん(46)は、雪道の滑りやすさを毎冬のように体感しています。「歩幅が小さいペンギン歩きでも、何度も滑ります」。光井祐介さん(47)も口をそろえます。

   

 雪に覆われる札幌市

 

 北海道は11月ごろから翌年4月ごろまで雪に覆われます。車道はスタッドレスタイヤでツルツルに固められ、歩道も溶けた雪が氷点下の夜に凍りついてアイスバーンのようになることが少なくありません。街中で滑って転倒する人があとをたたず、工事現場では死亡事故も発生しています。

 

 ハミューレ商品課リーダーとして、靴の開発に力を入れてきた2人。「滑りにくい靴をつくってほしい」。そんな声が来店者から相次ぐなかで誕生したのが「鬼底」ブーツです。靴の裏底をみると、つま先やかかとの外側が部分的に赤く色づけられ、蜘蛛の巣のようなデザインの溝が目に入ってきます。どんな仕掛けがあるのでしょうか。

   

 「赤鬼」の靴底

 

 赤色の部分は「ガラス繊維ゴムでできています」(岸本さん)。ガラス繊維が剣山のような状態でゴムに配合され、ソールがすり減っても常にガラス繊維が出てくるので、路面をとらえ続けることができます。ハミューレが靴作りを続けるなかで、「鬼底」ブーツで初めて使った素材だといいます。

 

 1975年に靴販売業「ハミューレシューズ」として創業し、その後、作業用品店として展開しているハミューレですが、幅広い商品の開発に力を入れるなかで、顧客から要望が多い冬靴について滑りにくい素材を探究し続けてきました。雪道で滑りにくい靴として、ここ10年ほど人気なのは、裏底にピンスパイクを打ち込んだシューズです。ところが、地下鉄やデパート内など堅い床では逆に滑りやすいという弱点がありました。

   

 かつてのハミューレの店舗

 

 2020年ごろ、業界内でガラス繊維ゴムが注目されるようになります。ただ、百貨店で販売されるような高価格の靴に使われる素材で、コストは低くはありません。「どうしたら少ない量で滑りにくい靴にいかせるか」。デザインを何種類も探るなかで、「滑りやすいのは靴底の周辺部」という経験上の知見をいかし、滑りやすい場所にガラス繊維ゴムを配置するデザインをつくりあげます。

   

 商品課リーダーの光井さん(左)と岸本さん

 

 裏底の「溝」のデザインパターンにも、独自の工夫が込められています。ヒントになったのは、意外にも、スタッドレスタイヤ。タイヤがスリップするのは、路面とタイヤの間に水の膜ができるためで、スタッドレスタイヤは水の膜が可能な限り少なくなるよう溝がデザインされています。靴が滑るのも、路面と靴の間にできた水の膜が原因です。人の体重や歩き方に対応できる溝を設計し、水の膜を溝から外側に流し出して靴底を地面にフィットさせる構造を追求しました。

 

 米国ブランド「76union」の靴を店舗で取り扱っているハミューレ。「76unionがモータースポーツを支援していることから、タイヤの技術を靴にいかせないかという発想が社員から出てきました。社内でスタッドレスタイヤを意識したデザインをいくつか開発するなかで、その機能性を反映させた商品開発につながりました」

   

 ハミューレの社屋

 

 こうしたアイデアの実現に向けて、多くの社員がプロジェクトに参加します。2020年5月に企画が本格化。靴底の型をつくり、この年の11月までに27センチの靴のサンプルを5足ほど製作します。5人ほどの社員が通勤やプライベートで試し履きを繰り返しました。「滑らないな。いいじゃない」「靴底の雪離れが良くないかも」。溝の深さや幅、角度をミリ単位で調整して1年半。新製品が誕生します。

 

 機能性の確保こそ大事にしましたが、履き心地やデザインも大切です。「重量感や、靴底のクッションの挟み込み具合も調整を重ねました」(光井さん)。

 

 「鬼底」のネーミングも、社内の声から決めました。アニメ「鬼滅の刃」がブームになるなかで、靴底の模様が「鬼」の顔のように見えるという声があり、ガラス繊維ゴムの赤色もふまえて「赤鬼」と命名されます。

   

 「鬼底」が並ぶ店舗

 

 品質改良は続きます。2021年冬に発売した赤鬼が、ビジネスパーソンの通勤靴から犬の散歩で履くシューズとしても使われるようになると、プロの職人から「より厳しい環境でも滑らない靴がほしい」との要望が寄せられました。

 

 靴裏のデザインづくりに再びチャレンジ。試し履きを繰り返し、ガラス繊維ゴムを使う場所をつま先から中央部に変更します。「蹴り出すときに力が入るのは足底の屈曲部であることを突き止めました」。ガラス繊維ゴムの色を青色に変更し、靴底の横幅を広げて滑りにくさを高めた「青鬼」が2023年冬、誕生しました。

   

 「青鬼」の靴裏

 

 地球温暖化の影響で、北海道でも数十年前と比べると雪の量は減少傾向にあります。しかし、雪が溶けやすい日が増えたことでむしろ路面凍結が頻繁になる地域も少なくないそうです。雪道の不安は北海道だけではありません。2024年2月の関東地方での積雪では転倒する人が相次ぎ、東京消防庁の管内だけでも120人が救急搬送されました。

 

 岸本さんは「滑りにくい靴づくりは、北国の永遠の課題です」、光井さんは「靴の会社として出発した歴史を大切に継承していきたい」と語ります。「価値の創造、富の創造、喜びの創造」を理念に掲げる企業らしく、さらに使いやすくスタイリッシュな靴開発をめざしています。

(野村雅俊)

 

クイズに正解された方のなかから、鬼底ブーツをプレゼントします。

▼鬼底 ウインターチャッカブーツ

 https://www.asahi-mullion.com/presents/detail/15314

 

▼ 鬼底 ダイヤルブーティー

 https://www.asahi-mullion.com/presents/detail/15315

 

▼鬼底 防水ブーティー

 https://www.asahi-mullion.com/presents/detail/15316

 

プレゼント応募締切:2024年11月12日16時