冷凍のカニクリームコロッケを油で揚げると、カニの香りがふわっと広がります。割るとトロリとしたクリームの中から、しっかりとしたカニの身があちこちから顔をのぞかせていました。
その名も「すごいカニクリームコロッケ」。名前負けしない「本気の一品」です。
開発したのは、鳥取・境港に製造拠点を置く水産加工メーカー「さんれいフーズ」と、食のセレクト通販「豊洲市場ドットコム」で知られる「食文化株式会社」。メーカーの宮本将史さん(41)と、通販担当のバイヤー八尾昌輝さん(43)、立場の異なる二人の思いが共鳴し、究極のカニクリームコロッケが誕生しました。
バイヤーの八尾昌輝さん(左)とメーカーの宮本将史さん
「理想のカニクリームコロッケをつくりたい」2人の思いが共鳴
「カニクリームコロッケの理想を追求したら、こうなりました」。
そう語る宮本さんが勤めるのは、境港で水揚げされる紅ズワイガニを買い付け、加工からコロッケ製造まで一貫して行う「さんれいフーズ」。「カニクリームコロッケを作るために生まれた会社」と自負するほどの企業です。
宮本さんは境港の出身で、地元に戻ってカニを扱うようになってから10年になります。数多くの製品を手がけてきましたが、心の奥にはずっと同じ思いがありました。
「従来品にも自信はありますが、もっとカニの甘さを感じられるカニクリームコロッケを作ってみたかったんです」

「ベニズワイガニの甘さを感じられるコロッケです」(宮本さん)
一方、共同開発を持ちかけたのが、通販サイト「豊洲市場ドットコム」などを展開する食文化のバイヤー八尾さんです。日々、全国の生産者と商品開発を重ねる中で、「カニクリームコロッケを本気で作りたい」という思いが募っていました。
「市販の冷凍カニコロッケは、実は“カニ風味”が多い。でも、カニを食べた満足感のあるものを作りたかったんです」
八尾さんが大切にしているのは、消費者の「潜在的な欲求」を見抜くことです。「実はみんな、もっとおいしいものを求めている。これが食べたかった。と思ってもらえる商品を届けたいと考えています」

理想の味に近づけるため、何度も試作を重ねました(八尾さん)
宮本さんの「カニへの愛情」と、八尾さんの「お客さまの心をつかむ直感」。
これまでの取引を通じた信頼関係もあり、二人の思いはすぐに重なりました。
「誰も作らないなら、僕らが作ろう」。手間もコストもかかりますが、だからこそ挑戦する価値がある。こうして「すごいカニクリームコロッケ」の開発が始まりました。
「カニを20%入れる」という非常識
現在、「カニクリームコロッケ」と名乗れるのは、原材料中に8%以上のカニが含まれ、乳脂肪分が1.4%以上あるものとされています。
しかし、この基準に届かず、香料やカニ風味かまぼこなどで風味を補っているものが市販品の中にはあります。パッケージには、「カニ入りクリームコロッケ」 「カニのクリーミーコロッケ」などと表示されている商品です。
「今回のコロッケは、カニ原料を20%使用しています。業界的にはありえない数字です」と宮本さんは話します。8%の基準を大きく上回る2.5倍。
カニを多く入れればいいという単純な話ではなく、クリームとのバランスを考えると「最大限おいしい」量が20%だったといいます。
水洗いせずに蒸し上げる 紅ズワイガニの甘みを逃がさない
使用しているのは、日本一の水揚げ量を誇る境港産の紅ズワイガニ。鮮やかな紅色と強い甘みが特徴で、柔らかく口の中でとろけるような食感が魅力です。
ただ、水分が多く鮮度が落ちやすいため、地元以外では扱いが難しい食材でもあります。そのため多くのメーカーは、水揚げしたベニズワイガニをすぐ工場に運び、水を大量に流しながら殻をむく「機械むき」で加工します。大量に生産できますが、どうしてもカニの風味が抜けてしまいます。「今回は、余分な水は使わずに蒸し上げるスチームミート製法で加工しました。カニ本来の旨味を逃さない方法です」と宮本さん。
「蒸気で蒸してから、殻をむく。手間はかかりますが、味の差は歴然です」。蒸したカニは、棒肉、棒崩れ、フレークの3種類を混ぜて使っています。

そのため、一口ごとに「ほぐれ感」や「しっとり感」が変わり、まるでカニを食べている感覚が味わえるそうです。
八尾さんは笑顔で言います。「カニがそれほど好きでない高校生の息子が食べて、カニが強すぎる、って言ってました(笑)。でも、それが狙いなんです。ひとくちで、これは違う、と感じてもらいたかったんです」
牛乳とカニ味噌、クリームの「絶妙なバランス」
開発が始まったのは2025年4月。そこから発売の10月まで、試作を重ねました。
「カニ味噌を入れるか、入れないか」「牛乳を変えたらどうなるか」。何度も試作を繰り返し、味のバランスを探りました。
「もう少しコクがほしいね、と感じてほんの少しだけカニ味噌を入れたら、ぐっと味が変わったんです」と二人は口をそろえます。
クリームには、地元・鳥取県大山乳業の「白バラ牛乳」を使用。関東では高級スーパーで見かける評判の高い牛乳です。成分無調整で自然な甘みがあり、濃厚なのに後味は軽やか。「白バラを使うとコクが出るのに重くならないんです」と宮本さんは話します。製造方法にもこだわりました。
一般的には、煮詰めて粘度を上げたクリームを型に流し、冷やして固めてからカットしますが、さんれいフーズでは熱々のクリームをトレーに流し込み、すぐに急速冷凍して固める独自製法を採用しました。
「滑らかさを優先したので効率は落ちます。でも舌触りが全然違うんです」。なめらかなクリームを守るため、衣は二重構造。カリッと感を出しながら、中身をやさしく包み込みます。「破裂しないように何度もテストしました。170度の油で6分半、その後10分余熱で火を通すのがベストです」。
「食べた瞬間に分かってもらえる」覚悟の自信作
八尾さんは、豊洲市場ドットコムで扱う「すごいシリーズ」の仕掛け人です。
「すごいネギトロ」「すごいシーフードミックス」に続く第三弾として、このコロッケを企画しました。
「ネット通販は、画面越しでしか伝わりません。だから、しっかり言葉で伝えることが大切です。送料を払ってでも取り寄せたいと思ってもらえるかどうかが勝負なんです」。「すごい」という商品名は、誇張ではなく覚悟の言葉です。「そこまで言うなら買ってみようか、と思ってもらえる熱を、僕ら自身が出していかなきゃいけないんです。食べた瞬間にこれは違うと思ってもらえるはずです」

いくら大ぶりとはいえ、4個で1400円。決して安くはありませんが、発売直後から好調な売れ行きを見せています。「夫婦で2個ずつ食べたら、それだけで贅沢な晩ごはんになります。今は外食でも1人1000円では、なかなかおいしいものを食べられませんから」と八尾さん。「やっぱり、潜在的に、ちゃんとしたカニクリームコロッケを食べたい、というニーズがあったと感じます」
「やりたいこと全部詰め込みました」
宮本さんは開発を振り返り、穏やかに語ります。
「自由にやらせてもらいました。やりたいことを全部詰め込みました。蒸したカニをふんだんに入れて、白バラ牛乳のコク、カニ味噌の奥行き……。地元で食べるカニの味わいです。いい商品は、営業しなくても売れる。商品そのものが語ってくれるんです」。
八尾さんもうなずきながら言います。
「これは、さんれいさんの技術と、僕らの売る覚悟の共作なんです」。
二人の言葉には、確かな手応えと誇りがにじみます。

家庭で揚げても専門店のような味わいを再現できる――そんな理想を形にした「すごいカニクリームコロッケ」。
冷凍庫にあると嬉しい、食卓が華やぐ贅沢な一品です。
170度の油に冷凍コロッケをいれる
6分半、油で揚げる
色よく揚がったら
バットで10分、余熱で火をいれる