19世紀の欧州は、実証主義が台頭し、理性や理論が重んじられました。それに反発するように、文学や美術で、人間の観念的世界を表現したのが「象徴主義」です。特に画家たちは、人間の内面や精神性を描こうとしました。
岐阜県美術館の収蔵品の核は、フランス象徴主義の画家、オディロン・ルドン(1840~1916)の作品。1982年の開館に向け国内所蔵先から収集した約130点が母体で、現在は254点に上ります。
ルドンはボルドー出身。パリに出て歴史画家を目指しますが、当時の教育になじめず帰郷。そこで版画家ブレスダンから技法を学び、版画や木炭画による独創的な「黒」の世界を展開します。
その画風が変化するのは、50歳の頃です。40歳で結婚したルドンは、長男を生後半年で亡くしますが、数年後に待望の次男を授かります。黒一色だった画面は一転、色鮮やかな色彩を帯びるようになりました。
「アポロンの戦車」はその頃の作品。ギリシャ神話を題材としており、同時期によく描いた「花」と並んで人気が高いテーマです。
「眼(め)をとじて」は、黒から色彩への転換期以降、度々描いたルドンの新たな主題です。なかでも同題の油彩画は、フランス国家に買い上げられ、現在はオルセー美術館が所蔵しています。
(聞き手・笹木菜々子)
《岐阜県美術館》 岐阜市宇佐4の1の22(TEL058・271・1313)。原則午前10時~午後6時。常設展330円ほか。(月)休み。
紹介した2作品は、4月10日~5月6日、所蔵品展示室で見られる。
学芸員 松岡未紗 まつおか・みさ 専門は、保存修復と西洋美術。同館の作品修復や企画展を手がけるほか、熊谷守一の制作技法に関する研究も。 |