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新版画 町田市立国際版画美術館

西洋と融合、高まる芸術性

橋口五葉「髪梳ける女」 1920年
橋口五葉「髪梳ける女」 1920年
橋口五葉「髪梳ける女」 1920年 川瀬巴水「東京十二題 深川上の橋」 1920年

 日本の版画史で、近代は一つの転換期といえます。明治になると浮世絵が衰退し、職人が分業してきた彫りや刷りの工程を1人の作家が一貫して担う創作版画が誕生。大正時代には、浮世絵の伝統と西洋の表現を兼ね備えた新版画が生まれます。大衆的な印刷物と美術品の中間にあった版画が、創作性の高い芸術に変化していきます。

 町田市立国際版画美術館は、日本でも珍しい版画専門館として1987年に開館。古代~現代の3万点超を所蔵しています。89年に「大正抒情 新版画の美展」を開催し、新版画にいち早く光を当てました。所蔵は約100点。様々な作家が新しい表現に挑んだ名品が揃(そろ)います。

 新版画を代表する作品が、橋口五葉(1881~1921)の「髪梳(す)ける女」。背景に雲母(きら)刷りを施すなど浮世絵の手法を取り入れる一方で、滑らかな身体描写は西洋的。波打つように流れる髪には、アール・ヌーボーの様式も見られます。

 五葉は浮世絵研究に熱心で、職人を雇って仕上げを追究しました。しかし志半ばで急逝。残っている作品は15点前後とされていますが、強烈な印象を与えました。当館では7点を所蔵しています。

 川瀬巴水(はすい)(1883~1957)の風景版画にも、江戸時代の名所絵とは異なる表現の広がりが見られます。モチーフは身近な景色。橋の向こうに遠景を描く構図は、浮世絵の影響を受けたジャポニスムの逆輸入といえます。

(聞き手・木谷恵吏)


 《町田市立国際版画美術館》 町田市原町田4の28の1(TEL042・726・2771)。午前10時~午後5時((土)(日)(祝)は5時半まで)。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。作品は企画展「浮世絵モダーン」(6月17日まで)で展示。「深川上の橋」は5月22日から。

滝沢さん

学芸員 滝沢恭司

 たきざわ・きょうじ 専門は日本近代美術史。同館開館当初から勤務。担当した企画展に「極東ロシアのモダニズム」など。

(2018年5月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)