江戸の浮世絵師・葛飾北斎(1760~1849)は、現在の東京都墨田区で生まれ、生涯のほとんどをその周辺で過ごしました。
同区で2016年に開館した当館は、北斎とその一門の作品など約1800点を所蔵しています。現在開催中の企画展「変幻自在! 北斎のウォーターワールド」(6月10日まで)では、北斎の水の表現に焦点を当てました。
「グレートウェーブ」の愛称で世界的に有名な「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏(なみうら)」(前後期で異なる摺(す)りを展示)は、全46図あるシリーズの中だけでなく、全画業における代表作。大胆な構図ですが、波頭やしぶきの形は一つ一つ異なり、描写は繊細です。さらに画面手前の小さな波を富士山の形にし、遊び心も加えています。70歳を過ぎてからの作品。琳派や狩野派、西洋画の画法も学び、晩年まで貪欲(どんよく)に表現を追究した北斎の集大成と言えると思います。
その後に描いた「諸国瀧廻(めぐ)り」シリーズも代表作の一つです。全8図のうち「下野(しもつけ)黒髪山きりふりの滝」(後期展示)は、滝が木の根っこや血管のように見え、生命体のようなパワーを感じます。滝の奥行きを表した藍のグラデーションも見て欲しい点です。
浮世絵における「風景版画」を人気ジャンルに押し上げた北斎。自然や命あるものを大事に思い、尽きない好奇心で観察する姿が浮かんできます。
(聞き手・牧野祥)
《すみだ北斎美術館》 東京都墨田区亀沢2の7の2。午前9時半~午後5時半。1000円。(月)((祝)(休)の場合は翌平日)休み。紹介した企画展の前期は5月20日まで、後期は22日から。問い合わせは03・5777・8600。
学芸員 山際真穂 やまぎわ・まほ 東京大大学院人文社会系研究科修了。北斎を中心とした浮世絵が専門。「完全網羅! 浮世絵」(中経出版)を監修。 |