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写実絵画 ホキ美術館

作家の主張が入る「リアル」

野田弘志「崇高なるもの OP.6」 2016年
野田弘志「崇高なるもの OP.6」 2016年
野田弘志「崇高なるもの OP.6」 2016年 原雅幸「薄氷の日」 2017年

 例えば写実画家2人が、同じレモンを描いたとします。どちらも本物そっくりですが、そこには「自分にはこう見える」という画家の主張が入り、全く違う作風になる。また、虚実を交ぜて描いても、そのリアルさから、鑑賞者に現実のものと思い込ませる力がある。そこに写実絵画の面白さがあります。

 19世紀に写真が誕生するまで、絵画は物の質感を伝える一番の手法でした。写実主義の代表といえばフランスのクールベ(1819~77)で、社会や自然を理想化せず、見たままに描きました。その後、写実の役割は写真にとって代わられますが、日本でも戦後、写実に注目する画家が出てき始めました。

 当館は日本初の写実専門美術館として2010年に開館し、現役の日本人作家を中心に約50人の480点前後を所蔵。開館に際して特別な展示室を作りたいと、複数の画家に自分の代表作と言える100号以上の大作を依頼しました。

 野田弘志の「崇高なるもの OP.6」はその一枚。ノーベル化学賞受賞者の野依良治(のよりりょうじ)さんを描いています。ただ立っているだけの姿ですが、おおらかな人間性までをまとわせるのは、画家の力だと思います。もう一枚は原雅幸の「薄氷の日」。自身が住む英国エディンバラの運河の景色です。館職員が現地に行くと、川幅も狭く、絵とは異なる印象の場所だったとか。「写実」に見えながらも、作家の見方や思いがこもった作品なのでしょう。

(聞き手・中村さやか)


 《ホキ美術館》 千葉市緑区あすみが丘東3の15(TEL043・205・1500)。午前10時~午後5時半(入館は30分前まで)。(火)休み。紹介した2作品は2020年11月中旬まで展示予定。

保木さん

館長 保木博子

 ほき・ひろこ 医療品メーカー創業者の父とともに、写実絵画を収集。年に2度、自宅で近隣住民に公開したのが、開館のきっかけ。2013年、館長に就任。

(2018年5月15日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)