印籠(いんろう)や巾着、煙草(たばこ)入れなどを帯に下げる際に使用する留め具「根付(ねつけ)」。木材や牙歯、金属などの全面に彫刻を施した、手のひらサイズの工芸品で、江戸時代後期に最も流行しました。着物から洋服に移行した今では、実用品としての需要は薄れ、美術的価値が高まっています。
その根付を専門に収集するのが当館です。文政3(1820)年に建てられた武家屋敷を改装し、2007年にオープン。昭和20(1945)年以降に作られた現代根付を軸として、江戸時代から昭和初期の古根付と合わせて約5千点を収蔵しています。
現代根付の魅力は、作家の制作背景や意図を近くに感じられるところです。及川空観(くうかん)(1968~)の「無可有郷(むかゆうきょう)『夢流(ゆめのながれ)』」は、荘子が唱えた理想郷を表現。好奇心に目を輝かせながら川遊びをする少年が、空想の生きものを従え、世界の覇者を夢見る姿を描いています。精緻(せいち)な技と自由な発想が、躍動感ある造形美を生んでいます。
藤田寶山(ほうざん)(1917~2010)の「戌(いぬ)」は、着物生地を傷めないように突起がなく、根付の基本である「丸くおさめる」という点が顕著に見てとれます。グッと握った手へのなじみの良さからは、作家の温厚な人柄が伝わってくるようです。
掌中の美――。紐(ひも)通しの穴が開いた根付は、置物とは異なり、あくまで「用の美」なのです。
(聞き手・井本久美)
《京都 清宗根付館》 京都市中京区壬生賀陽御所町46の1(TEL075・802・7000)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。紹介した2作品は6月30日まで常設展示。
学芸員 伊達淳士 だて・あつし 開館時から主任学芸員を務める。「宮崎輝生展」(6月1~30日)などの企画展や常設展の展示を担当。 |