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スペイン絵画 長崎県美術館

外交官が収集した「黒い絵」

ホセ・グティエレス・ソラーナ 《軽業師たち》 1930年
ホセ・グティエレス・ソラーナ 《軽業師たち》 1930年
ホセ・グティエレス・ソラーナ 《軽業師たち》 1930年 フランシスコ・ゴヤ「ロス・カプリチョス」 第43番「理性の眠りは怪物を生む」 1797~98年 初版オリジナル装本

 当館コレクションの柱の一つは、15世紀~現代のスペイン美術です。約600年にわたる流れを展望できるのが特徴。その中心は、第2次大戦中のスペイン駐在特命全権公使・須磨彌吉郎(1892~1970)が収集した絵画です。

 須磨が外交官として、スペインに赴任したのは41年。欧米の情報収集にあたる一方で、スペイン美術の精神性に惹(ひ)かれて収集を始めました。画廊や作家から計1760点を購入するなど、パトロンとしても有名でした。

 戦後はA級戦犯に指定され、46年に帰国。指定解除後、約10年にわたりスペインとの作品返還交渉に取り組みました。その結果、手元に戻した作品のうち501点が当館に収蔵されています。南蛮貿易に始まるスペインとの縁を感じたのか、作品は長崎にと決めていたそうです。

 ソラーナ(1886~1945)の油彩画は、須磨が一目見てほれ込み、10点以上を購入しました。

 黒を基調にした暗い色彩。主題の多くは、貧困や狂信的な慣習など社会の暗部。須磨は「『黒いスペイン』と呼ばれる絵画の伝統をくんでいる」と評価しました。「軽業師たち」のモチーフは蠟(ろう)人形といわれており、人間か人形か分からないような表現に不気味さが漂います。

 須磨コレクションを補完するために、当館は、ピカソやミロなど近現代スペインの巨匠の作品も収集しています。ゴヤ(1746~1828)の版画集「ロス・カプリチョス」もその一つ。古い慣習に縛られた社会を鋭く批判しています。

(聞き手・木谷恵吏)


 《長崎県美術館》 長崎市出島町2の1(TEL095・833・2110)。午前10時~午後8時(入館は30分前まで)。原則第2・4(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。常設展400円ほか。作品は6月26日~12月9日に展示。

稲葉さん

学芸員 稲葉友汰

 いなば・ゆうた 東京芸術大大学院修了。専門は近代スペイン・フランス美術史。美術館では主にゴヤなどのスペイン美術を担当。

(2018年6月26日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)