華やかな模様や色、形の変化をそぎ落とした、静かで端正な「樂茶碗(らくちゃわん)」。安土桃山時代、千利休に見いだされた樂家の初代長次郎(?~1589)が作り出しました。それから約450年、樂焼は一子相伝で受け継がれ、僕で15代目です。
1978年、窯元の隣に樂美術館を開いたのは、14代覚入(かくにゅう)(1918~80)です。所蔵品約1200点は、樂家の当主たちが手元に置き、大切に伝えてきたもの。樂家には秘伝書がなく、父から子へ何かを教えることもない。歴代の当主たちは、残された先人の作品を頼りに、独自の創造性を築き上げてきました。
今回選んだのは、3代道入(どうにゅう)(1599~1656)の茶碗。樂茶碗に初めて文様を採り入れ、つややかな釉薬(ゆうやく)を使うなど、モダンな作風です。彼は芸術家の本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)と深い交流がありました。道入のすごさは、光悦の創造性を間近に感じながら、まねるのではなく、自分の世界を作りあげたこと。歴代の中でも偉大な人です。
もう一作は、道入の息子の、4代一入(いちにゅう)(1640~96)。本作にも見られる、黒釉に赤が混じる「朱釉(しゅぐすり)」を完成させるなど、釉薬の上で秀でた功績を残しました。
僕は今まで激しい表現の茶碗を作ってきましたが、最近は変わってきた。激しくなくてもいいかなって。存在するだけで磁力を発するような、静かで強い茶碗を作りたい。そんな気分です。
(聞き手・笹木菜々子)
《樂美術館》 京都市上京区油小路通一条下ル(TEL075・414・0304)。午前10時~午後4時半。(祝)を除く(月)休み。入館料は企画展によって異なる。2点は、8月26日まで開催の夏期展「炎の中の赤と黒」で。
館長 15代樂吉左衛門 1949年生まれ。東京芸大彫刻科卒業後、伊ローマに留学。81年に15代樂吉左衞門襲名。近著に「光悦考」など。写真は畠山崇撮影。 |