春先にいち早く舞うことから「春の女神」と呼ばれるギフチョウ。発見者の名和靖(1857~1926)の研究所付属施設として、1919(大正8)年に開館しました。国内の昆虫博物館としては最も古く、約1万2千種30万頭の収蔵標本を擁します。
標本には二つの目的があります。まずは、研究材料としての「証拠」。次に「観賞」ですが、自身が採集した際の喜びや興奮、情景などをそのままにとどめておく宝箱のような要素も秘めています。標本にしても色が変わりにくいチョウは、収集家に人気です。昆虫に魅せられた「虫屋」の感動体験を交え、2体をみていきましょう。
金属光沢を帯びた橙(だいだい)色の翅(はね)のアカメガネトリバネアゲハ。ダーウィンと同時期に進化論(自然淘汰(とうた)説)を唱えた、19世紀の博物学者アルフレッド・R・ウォレスにより、インドネシアのバチャン島で発見されました。当時、緑色の翅のトリバネチョウは既に発見されていましたが、橙色は新種だったため、ウォレスは興奮のあまり熱で寝込んだという逸話が残ります。
私が虫採りの醍醐味(だいごみ)を知るきっかけになったのが、ミヤマカラスアゲハです。北海道から九州にかけて分布し、青緑の艶色(えんしょく)が特徴。研究員になりたての頃、先輩に連れられて県内の渓流で捕ったのですが、失敗を繰り返してようやく手にした瞬間の高揚と体の震えは、今も忘れられません。
(聞き手・井本久美)
《名和昆虫博物館》 岐阜市大宮町2の18(TEL058・263・0038)。午前10時~午後5時。500円。(祝)を除く(水)(木)休み(8月は無休)。500円。現在、約千種類3千500頭が館内に並ぶ。2点は常設展示。
館長 名和哲夫 なわ・てつお 岐阜大大学院農学研究科修了。2003年に館長就任。野外観察会や昆虫教室などの企画を通し、自然の魅力を伝える。 |