古便器とは、非水洗式トイレ用に作られた陶磁製の便器のこと。江戸末期に木製に代わるものとして陶製が登場しました。掃除がしやすく腐食しないからでしょう。磁器でも作られ、小判形の大便器や据え置きタイプの小便器などが生まれました。
白地に青色で文様を施した染付(そめつけ)の便器は、1891(明治24)年に愛知や岐阜を襲った濃尾地震後の復興需要の中で、料亭や旅館、富裕層を中心に普及しました。絵柄は花や鳥が多いですね。大半が愛知の瀬戸で作られ、全国に広まりました。
当館は、1990年代からINAX(現LIXIL)の研究開発部門が集めてきたものや寄託品など約600点の古便器や付属品を収蔵しており、うち約30点を展示しています。
男性用の「染付花鳥図朝顔形小便器」は、幅が広く珍しい形です。2009年に寄贈されたもので、前の持ち主は骨董(こっとう)市で購入し、花壇として使っていました。瀬戸を代表する窯元の一つだった「紋右衛門窯」で作られた高級品。便器外側の正面に菊とツル5羽が、内側には松の木とつがいのキジが描かれています。
小便器とセットで作られたのが厠下駄(かわやげた)。便器の前に置かれ、立ち位置を示しました。
便器へのあくなきこだわりには、日本人の清潔志向と美意識が見て取れます。
(聞き手・牧野祥)
《INAXライブミュージアム》 愛知県常滑市奥栄町1の130(TEL0569・34・8282)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。600円。15日と(祝)を除く(水)休み。紹介した2点は、ミュージアム内「世界のタイル博物館」で常設展示。
常設展担当 内沢礼子 うちざわ・あやこ 1989年から二十数年、INAX(現LIXIL)で住宅設備機器などの営業を担当。2016年から現職。 |