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奇想の絵画 三重県立美術館

異様さの中に光る蕭白の技

曾我蕭白「林和靖図屛風(右隻)」 1760年 紙本墨画淡彩
曾我蕭白「林和靖図屛風(右隻)」 1760年 紙本墨画淡彩
曾我蕭白「林和靖図屛風(右隻)」 1760年 紙本墨画淡彩 曾我蕭白「牧牛図襖(全4面のうち右端の1面)」 1764年頃 紙本墨画

 自由で斬新な発想で描かれた江戸時代の「奇想の絵画」。その系譜に連なる一人とされているのが江戸中期の京絵師・曾我蕭白(しょうはく)(1730~81)です。三重県内には多く作品があり、伊勢出身だと思われていたほどですが、遊歴の際に作品を残したようです。当館は17作品を所蔵しています。

 「林和靖図屛風(りんなせいずびょうぶ)」は蕭白が初めて伊勢を旅した30歳ごろの作品。モチーフは中国宋代の詩人・林和靖ですが、全体を荒々しく覆う梅の木の異様な形に目を奪われます。顔つきも生活に飽きたように、けだるい。童子の一人は林和靖を指さし、鑑賞者に向かって何か言いたげです。俗世を離れ、妻の代わりに梅を愛した林和靖を理想の文人像として描いた他の作品と比べると、かなり異端です。室町時代におこり、江戸中期には途絶えていた「曾我派」をあえて名乗った蕭白が伝統や権威に対して斜に構えていた様が見て取れます。

 幹には金泥が塗られ、左隻(させき)に描かれた三日月の光が反射しているのが分かります。銀ではなく金を使うことで、絵の持つ神秘的な雰囲気を引き立てていますね。

 「牧牛図襖(ふすま)」は2度目の伊勢来訪で、同県明和町の旧家永島家のために描いた44面の襖絵のうちの4面。筆を使わずに、酔っ払いながら指や爪に墨を付けて描いたと言われる指頭画です。ここでも童子の表情がユーモラス。足の指の輪郭を取った細かい線も見事です。

(聞き手・井上優子)


 《三重県立美術館》 津市大谷町11(TEL059・227・2100)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。2作品は企画展「日本画*大研究」(9月11日~10月14日)で展示。600円。

村上さん

学芸員 村上敬

 むらかみ・けい 関西大大学院修了。専門は近世日本美術史。2017年より同館勤務。「開館35周年記念 本居宣長展」などに関わる。

(2018年9月4日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)