今年生誕150年の横山大観(1868~1958)。日本美術院の創設、再興に携わり、明治、大正、昭和にわたって、富士図、花鳥画、山水画などを描いた近代日本画家です。
1970年、実業家の足立全康(ぜんこう)が開館した当館は、約120点の大観の作品を所蔵。毎年秋の3カ月間だけ展示する「紅葉(こうよう)」は、70年に及ぶ画業の中で最も絢爛(けんらん)豪華な作品です。
六曲一双の屛風(びょうぶ)に、左から右へと流れる川の上に紅葉の枝や幹が伸び、紅葉の朱と川の水面の群青が見事なコントラストを見せています。川の流れや水しぶきには、当時、高価で珍しかったプラチナをふんだんに使用。紅葉の葉脈には金でアクセントを付けました。時を経てもあせない輝きを放っています。実はこの絵、墨と金で描かれる予定でした。大観が、京都で好みの朱色に出会い、構想を変更したと言われています。
大観は30年、ローマで開催された日本美術展覧会で純日本風に会場を装飾し、知名度を上げました。翌年の日本美術院展に出展されたのがこの「紅葉」。さらに新しい表現を試み、画壇に大きな影響を与えたのです。
当館は、大観の世界観を5万坪の日本庭園で表現しています。名作「白沙青松」を模したのは、白砂青松庭。その右奥に流れる滝は、墨の濃淡で湿潤な空気を表した「那智乃瀧」がモデルです。絵画の世界を実際の庭でも体感してみてください。
(聞き手・佐藤直子)
《足立美術館》 島根県安来市古川町320(TEL0854・28・7111)。午前9時~午後5時半(10月~3月は5時まで)。無休(新館のみ休館日あり)。2300円。2点は11月30日まで展示。同日まで、特別展「横山大観VS.日本画の巨匠たち」を開催。
学芸員 山根布由実 やまね・ふゆみ 横山大観を始めとする近代日本画を中心に陶芸、童画などを担当。同館の庭園は、米国の日本庭園専門誌が発表する「日本庭園ランキング」で15年連続第1位に選ばれている。 |