土門拳(1909~90)は、日本の文化や人物を題材に撮影を続けた写真家です。当館は出身地に全作品を贈りたいという土門の申し出から83年に開館しました。仏像写真は土門が長年追究したテーマ。約1千点の作品の中から、奈良県にある仏像を撮影した2点を紹介します。
「飛鳥寺金堂釈迦如来坐像面相詳細」(64年)は、被写体に寄って撮る土門の特徴が分かりやすく表れた、インパクトある作品です。ですが、この構図にはもう一つ理由があったんです。7世紀に制作されたこの仏像は、火災などに遭い、撮影当時は大部分が補修されたと考えられていました。土門はつぎはぎされた仏像が気に食わず撮影をやめてしまいました。でも後に、日本最古とされる金銅仏を避けては通れないと考え直し、原形が残るという部分を切り取るように撮影したのです。
「室生寺弥勒堂釈迦如来坐像左半面相」(66年ごろ)は土門が一番好きな仏像を撮った作品。戦前、この仏像に魅せられたことがきっかけで仏像写真を撮り始めたのです。室生寺には50回以上通い、撮影をしています。そして病を得た後、78年に車イスで撮影した同寺の写真集を出版。翌年倒れ、そのまま11年間目を覚ますことなく、亡くなりました。「室生寺に始まり、室生寺に終わる」。土門の仏像写真の原点ですね。
(聞き手・町田あさ美)
《土門拳記念館》 山形県酒田市飯森山2の13(TEL0234・31・0028)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。無休。12~3月は、原則(月)((祝)の場合は翌日)と12月25日~1月3日休み。430円。2作品は12月24日まで展示。
学芸員 池田佳奈 いけだ・かな 2012年より同館勤務。企画展の構成や収蔵作品の管理、資料の調査などを担当する。 |