なにしろ広い北海道。各地の道立美術館では、地域ゆかりの作品収集が大きなテーマです。当館は1986年、「道南の美術」と、松前町出身で、近代詩文書のジャンルを確立した書家・金子鷗亭(おうてい)らの「書」を収集の柱に開館しました。その二つをつなぐ三つ目の柱が「文字と記号に関する現代美術」です。
よく知られたアンディ・ウォーホルの「キャンベルスープ缶」を始め、日々消費される新聞を恒久的な焼き物で表現した作品、言葉や記号を静ひつな構成で描き、哲学的な思想を浮かび上がらせた絵画などをコレクションしています。「文字と記号」をテーマに掲げることで、ポップアートから概念芸術まで、幅広い方向性の作品を収集することができるのです。
平林薫(1955~)の「五十一音―箱」は、ひらがなをモチーフに、その文字を語頭に持つ物のオブジェを、黒い箱の内側に装飾した作品。全て並べた時の迫力に圧倒されます。ぜひ見てほしいのは「す」の箱。「スルメ」が見えます。函館はイカが名産なので、お気に入りなんです。扉を開けた状態で展示していますが、学芸員は展示準備の際、箱を開くたびにオブジェに出会う喜びがあり、毎回新鮮な感動を味わっています。
現代以前の作品からも1点。「李朝文字絵(義)」は朝鮮半島の民画で、儒教の倫理観を集約した「孝悌忠信礼義廉恥」の中の1文字を描いたもの。「義」の最初の2画をつがいの鳥で表し、花で飾っています。
(聞き手・中村さやか)
《北海道立函館美術館》 北海道函館市五稜郭町37の6(TEL0138・56・6311)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。原則(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。2点は2月3日まで特別展示室で。510円。
学芸員・井内佳津恵 いうち・かつえ 北海道立近代美術館などを経て2016年から現職。「北海道文化のさきがけ、道南」の魅力を伝える企画に携わる。 |