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襖(ふすま)絵 串本応挙芦雪館

南紀でのびのびした画風に

長沢芦雪「龍図襖」(部分) 紙本墨画 1786年
長沢芦雪「龍図襖」(部分) 紙本墨画 1786年
長沢芦雪「龍図襖」(部分) 紙本墨画 1786年 長沢芦雪「唐子遊図襖」(部分) 紙本墨画淡彩 1786年

 当館は本州最南端の町、和歌山県串本町の無量寺境内にあります。収蔵品の中心は、「奇想の画家」の一人、長沢芦雪(ろせつ)(1754~99)が無量寺のために描いた障壁画35面で、いずれも国の重要文化財です。

 なかでも、生涯の傑作と言われるのが「虎図・龍図襖」(計12面)。本堂の仏間とそれに続く部屋に、虎と龍が向かい合うように描かれました。「一夜にして完成していた」という伝説が残るほど、筆に勢いがあります。龍は上半身だけで、大きな爪がすごい迫力ですよね。

 現在、本堂にはデジタル再製画をはめています。虎が岩陰から、龍が雲間からまさに飛び出してきた瞬間を表した構図は、仏間を前に祈りを捧げるとき、仏の使いのように見え、神聖で緊張感のある空間を生み出します。

 芦雪が、師匠・円山応挙の代理として京都からこの地へ来たのは、86年10月。翌年2月まで滞在し、多くの絵を描きました。写生を重視する円山派で学び、テクニシャンだった芦雪ですが、ここ南紀に残る作品はのびのびとした作風が目を引きます。豊かな自然に囲まれ、温暖な気候の南紀で、自身の画風を確立する礎を築いたのです。

 じゃれ合う犬の子や、絵を描いたり字の練習をしたりする子どもらが描写された「唐子遊図(からこあそびず)襖」(8面)は、私ら禅の修行をかじった者には「犬の子も人の子も同じか」という禅問答が見えてきます。芦雪は禅僧とも親交が深く、作品にはその影響もあると考えられます。

(聞き手・牧野祥)


 《串本応挙芦雪館》 和歌山県串本町串本833(TEL0735・62・6670)。午前9時半~午後4時半。1300円。2作品の実物は、雨の日を除き、館収蔵庫で鑑賞できる。臨時休館あり。

八田さん

館長 八田尚彦

 はちだ・しょうげん 兵庫県出身。2004年から無量寺(臨済宗東福寺派)の住職。在館時は、訪れた人に展示物の説明もする。

(2019年2月12日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)