模様を彫り抜いた型紙と防染糊(のり)を使って染める「型絵染」(型染め)の分野で、初めて人間国宝に認定されたのが、静岡市出身の芹沢銈介(せりざわけいすけ)(1895~1984)。当館は、芹沢の作品約800点と彼が収集した約4500点の工芸品を所蔵しています。
芹沢は20代の頃、デザイナーとして活躍し、34歳から型染めを始めました。模様や色彩への優れた感覚を型染めの世界に持ち込んだのです。カレンダーやうちわなど、様々なものを型染めの対象とし、新しい表現に挑戦しました。
「ばんどり図四曲屏風(びょうぶ)」は、山形県庄内地方の「ばんどり」という背中当てを、写実的に模様化した作品です。素材の質感や編み方が分かるほど精密で、農村の手仕事に対する深い理解と尊敬が伝わってきます。
芹沢は収集家でもあり、桃山時代に作られた「誰(た)が袖屏風」を特に大切にしていました。衣桁(いこう)に掛けられた当時の優美な着物を描いた屏風で、本作にはその影響があったのではないか、と私は思っています。都市だけでなく、農村にも日本を代表する美がある。いわば農村の「誰が袖屏風」ではないかと。
晩年に制作した「寿の字のれん」は、「ばんどり図四曲屏風」とは対照的に鑑賞者の想像力をかきたてる作品。ひげを生やした老人やソフトクリームに見えるという人も。不思議な幸福感を与えてくれます。
(聞き手・町田あさ美)
《静岡市立芹沢銈介美術館》 静岡市駿河区登呂5の10の5(TEL054・282・5522)。午前9時~午後4時半。(月)((祝)(休)の場合は開館)と(祝)(休)の翌日休み。2作品は3月24日までの「芹沢銈介の収集」で展示。420円。
学芸員 白鳥誠一郎 しらとり・せいいちろう 東北大文学部史学科卒業。1993年から同館勤務。展覧会の企画や、図録の編集、執筆などを手がける。 |