当館は、日本近代彫刻を牽引した朝倉文夫(1883~1964)の旧アトリエ兼住居。朝倉は24歳でここにアトリエを構え、少しずつ土地を買い足し、増改築を繰り返しました。コンクリート造りのアトリエ棟と木造の住居棟が連結して中庭を囲むような現在の形になったのは1935年。朝倉の没後、67年から遺族によって公開され、86年に彫塑館として開館。現在は朝倉の彫刻や書画など約3万8千点を所蔵しています。
同時代の彫刻家には高村光太郎や荻原碌山がいます。彼らは欧米に留学し、仏の彫刻家ロダンに傾倒しますが、朝倉は日本にとどまり模索を続け、人や動物のありのままの姿を表現する「自然主義的写実」へとたどり着きました。10年に制作された「墓守」はその転機となった作品。本作までは観念的なモチーフを彫刻で表し、ロダンの影響が見られましたが、「墓守」は目の前のモデルを写し取るように制作しました。すると、目に見えないものを形にする生みの苦しみから解き放たれ、思うがままに制作が進んだのです。この経験で方向性を見定めたようです。この老人、一見怖い顔のようで、実は歯を見せて笑っています。
愛猫家として知られる朝倉は、猫の様々な姿を彫刻で残しました。中でも30年の「たま」は特別な魅力があります。首元の鈴と切り込まれた細い瞳は、他作に見られない特徴。軽やかな動きからは鈴の音が聞こえてきそうですし、細い瞳孔は光の存在を感じさせます。
(聞き手・笹木菜々子)
《台東区立朝倉彫塑館》 東京都台東区谷中7の18の10(問い合わせは03・3821・4549)。午前9時半~午後4時半。500円、小中高生250円。2点は9月1日まで展示。(月)(木)((祝)の場合は翌日)休み。
戸張泰子 とばり・たいこ 専門は近代日本美術史。朝倉文夫や館の魅力を発信している。特別展「朝倉彫塑館の白と黒」(9月7日~12月15日)を企画中。 |