当館がある京都市の三条釜座には、安土桃山時代、鉄を中心に扱う座人の家が80軒ほどあったようです。その中の一つ、大西家は、江戸初期より茶道をたしなむ大名などに茶釜を作るようになり、六代浄元の頃から茶道の家元千家に出仕、当代まで釜師として技術を伝えています。
先代浄心の頃は、高度経済成長の勢いのように豪華な茶道具が好まれた時代。浄心も華やかな作品を得意としました。「唐銅鳳凰風炉累座富士釜添」は、炭を入れる風炉に、帝や復活、再生を象徴する金の鳳凰を施し、釜は富士山をかたどっています。両肩の鐶付には魔除けの鬼。この作品は菊形で銀製の蓋のつまみ、凹凸やツヤ、シャープなラインが華やか。鳳凰が好むという桐をモチーフにした茶道具とともに、新たな時代の平和を祈って展示しています。
二代浄清の「海老ノ釜」は、鐶付のリアルな海老と高く立ち上がった口の部分が特徴です。海老は写実的ですが、すっと伸びたひげは模様として釜に溶け込んでいく。口の高さは力強い印象を与えますが、釜は丸くなだらか。具象と抽象、強さと繊細さが溶け合うような浄清の独特の世界観が見てとれます。
一見自然に見える茶釜のざらっとした鉄の風合いは、砂粒を一つひとつ彫るようにして作り上げた意匠です。出来上がった時から、すでに何百年も使いこんだように作るのです。時間と手をかけて使い込んだ道具に美を見いだす感覚が、鉄製の釜を通して見えてきます。
(聞き手・山田愛)
《大西清右衛門美術館》 京都市中京区三条通新町西入ル釜座町18の1(問い合わせは075・221・2881)。午前10時~午後4時半(入館は30分前まで)。(月)休み。900円。今期は6月23日まで。
大西詠美 おおにし・えみ 2005年から現職。当代大西清右衛門夫人。春秋の企画展と同館で開催する「京釜特別鑑賞茶会」を企画運営している |