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櫛 澤乃井 櫛かんざし美術館

小説にも描かれた光琳の櫛

尾形光琳「鷺文様蒔絵櫛」 江戸中期 実寸は横8・5センチ
尾形光琳「鷺文様蒔絵櫛」 江戸中期 実寸は横8・5センチ
尾形光琳「鷺文様蒔絵櫛」 江戸中期 実寸は横8・5センチ 作者不明「桜花文様蒔絵櫛」 江戸後期 実寸は横15センチ

 1998年に開館した当館は、江戸から昭和までの櫛とかんざしを中心に、化粧に用いる紅板、かつら、姫印籠、携帯用の筆記具を入れる矢立など約5千点を所蔵しています。そのうち約3千点は、櫛・かんざしのコレクター岡崎智予(1924~99)の収集したコレクション。岡崎は、祇園の芸妓から東京で料亭の女将となり、古櫛の魅力を生涯追い続けました。

 櫛は、江戸時代に結髪が定着すると、装飾品として多彩な発展を遂げました。髪をすくだけではなく、日本髪を飾るものとして、木・象牙・鼈甲などの素材に、漆や蒔絵、螺鈿の細工が施されました。

 「鷺文様蒔絵櫛」は、尾形光琳(1658~1716)が手がけた唯一の櫛といわれ、鷺の図柄は、酒井抱一(1761~1829)が編んだ作品集「光琳百図」にも出てきます。京都の裕福な呉服商・雁金屋の次男坊だった光琳が、江戸で世話になった豪商・冬木家夫人に謝礼として贈ったとされています。当時も貴重だった鼈甲に金蒔絵を施し、金の純度が高く、輝きの強い逸品です。岡崎をモデルにした芝木好子の小説「光琳の櫛」にも登場します。

 「桜花文様蒔絵櫛」は、柞の木に黒漆と金蒔絵で、珍しく表裏に同じ図柄、背にも桜が描かれた華やかなもの。江戸時代の櫛は、繊細で写実的な柄が一般的ですが、これは大胆に図案化されています。丸みのある形も斬新で、当館のシンボルマークにしています。

(聞き手・清水真穂実)


 《澤乃井 櫛かんざし美術館》 東京都青梅市柚木町3の764の1(問い合わせは0428・77・7051)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。600円。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。2点は9月23日まで展示。

おざわ・とくろう

おざわ・とくろう

 1956年生まれ。98年より副館長、2003年より館長を務める。「蒔絵矢立と変わり矢立展」(9月23日まで)を開催中。

(2019年7月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)