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絣 文化学園服飾博物館

綿密な染め分け 至難の柄合わせ

パトラ「サリー」(部分) 19世紀末~20世紀初め 縦135×横400センチ
パトラ「サリー」(部分) 19世紀末~20世紀初め 縦135×横400センチ
パトラ「サリー」(部分) 19世紀末~20世紀初め 縦135×横400センチ 久留米絣「布団地」 明治後期 縦217×横157センチ

 絣は、文様にそって糸束をくくるなどして防染し、染め分けて織り上げる染織技法。経糸を染める経絣、緯糸を染める緯絣、経緯両方の糸を染め分ける経緯絣があります。綿密な事前準備が必要で、特に経緯絣は経糸と緯糸の交差による模様合わせが難しく、インドの一部とインドネシアのバリ島、日本で作られています。世界の衣服や染織品を収集する当館は、約780点の絣を所蔵しています。

 パトラは、インド西部のグジャラート州で織られる絹の経緯絣。細かな文様と多彩な色が特徴で、花嫁衣装や儀礼布に使われます。民族衣装「サリー」に表現されたのは、縁起の良い白象やオウム、花。一般に、絣は柄の輪郭線がかすれてぼやける傾向がありますが、本作は輪郭をしっかりと出そうとしています。1・3メートルの広い幅で、数本の経糸と緯糸を交差させて柄を合わせるのは至難の業。しかも糸を赤や黄など5色に染め分けるために、くくりを何回も繰り返しています。世界各地の絣の中でも際立つ精緻さです。

 インド、東南アジア、琉球経由で本土にもたらされた絣は、江戸後期に木綿の普及とともに日本各地で発展しました。明治後期制作の久留米絣「布団地」も経緯絣で、藍と白を基調にした婚礼道具。反物幅の布5枚を縫い合わせ、一つの大胆な文様に仕立てています。日清・日露戦争の勝利に高揚した時代、「三国一」などの文字と、近代化を象徴する汽車や電信柱を取り入れた模様は斬新で、自信と気概を感じます。

(聞き手・上江洲仁美)


 《文化学園服飾博物館》 東京都渋谷区代々木3の22の7(問い合わせは03・3299・2387)。午前10時~午後4時半(入館は30分前まで)。原則(日)(祝)(休)、8月9日~18日休み。500円。2点は、展覧会「世界の絣」(9月10日まで)で展示。

村上佳代さん

学芸員 村上佳代

 むらかみ・かよ 1996年より現職。専門はアジアやアフリカ地域の服飾。企画展「衣服が語る戦争」「世界のビーズ」などを手がける。

(2019年7月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)