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漆継ぎ 石水博物館

継ぎ目に金銀漆 「不足」の美学

川喜田半泥子作 伊賀水指「慾袋」 1940年 高さ18×胴径22センチ
川喜田半泥子作 伊賀水指「慾袋」 1940年 高さ18×胴径22センチ
川喜田半泥子作 伊賀水指「慾袋」 1940年 高さ18×胴径22センチ 井戸茶碗「紅葉山」 朝鮮時代 高さ7・8×口径16・3×高台径5・7センチ

 割れたり欠けたりした陶磁器を漆で繕う修理法「漆継ぎ」。室町時代に開花した茶の湯の文化と共に発展してきたとされています。破損部分を目立たせない西洋の修復とは違い、あえて継ぎ目に金や銀、色漆で装飾することで、不足の美を「景色」としてめでる、日本人の感性が息づいているのです。

 当館は、伊勢の豪商・川喜田家歴代当主が収集した茶道具や絵画、古書典籍などを所蔵しています。第16代当主・川喜田半泥子(1878~1963)は「東の魯山人、西の半泥子」と称された多芸多才な人物。侘び茶に精通し、自邸に窯を築くほど茶陶づくりに没頭しました。陶器の自然な割れや歪み、へたりを好んだ半泥子が、繕うことで新たな価値を見出したゆかりの2作品を紹介します。

 代表作の「慾袋」は、旧津藩主・藤堂家の屋敷で見た古伊賀の水指「破袋」を範として、3点作ったうちの一つ。京都の継ぎ師に頼み、窯割れを漆で継いで青海波の蒔絵を施しています。自由な精神で「破格」と評された半泥子は、焼締の土肌に金の華やかさを取り合わせ、「欲」に下心をつけるという遊び心あふれる銘をつけています。

 もう1点は、半泥子が愛蔵した井戸茶碗「紅葉山」。利休の師・武野紹鴎の所持と伝わる一碗で、朝鮮時代に焼かれたもの。施釉の際にできた陶工の指痕が素朴さの中に豪快な風格を漂わせ、半泥子は茶碗づくりの手本としました。金の繕いが、その歴史の深みを引き立たせています。

(聞き手・井本久美)


 《石水博物館》 津市垂水3032の18(問い合わせは059・227・5677)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。500円。原則(月)((祝)の場合は翌日)休み。2点は12月8日まで展示。

桐田貴史さん

学芸員 桐田貴史

 きりた・たかし 専門は日本中世史。今年4月から現職。「書と墨画の美」展を手がける。現在、来年2月の「伊勢商人川喜田家への手紙」展を企画中。

(2019年9月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)