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大津絵 大津市歴史博物館

人気を博した「ゆるかわ」キャラ

  • 紀楳亭「大津絵見立忠臣蔵七段目図」 紙本墨画淡彩 江戸時代後期 縦130.2×横28.3センチ
  • 「鬼念仏」 紙本著色(一部型紙ずり) 江戸時代前期 縦58.2×横22.3センチ

 江戸時代、東海道と伏見街道が合流する追分(大津宿の西端)で土産物として売られていた大津絵は、いわば「ファストペインティング」です。無名の職人が仏画や世俗画を家族で分業制作。店頭注文に素早く応えました。今なら500円~千円程度。肉筆画なのに安いのは、型紙を使った彩色や紙のサイズの規格化など、コスト削減策によるもの。当館は寄託品を含め65点の大津絵を収蔵、常時10点を展示しています。

 名のある絵師らが描く一点もののファインアートとは対極的な絵画ですが、円山応挙や伊藤若冲らも大津絵のゆるくてかわいい造形に惚れて、我流の「絵変わり大津絵」を描きました。「大津絵見立忠臣蔵七段目図」もその一枚。与謝蕪村の弟子・紀楳亭の作品です。赤穂浪士の討ち入りを題材にした歌舞伎演目の祇園一力茶屋の場面。役者を大津絵キャラクターに見立てています。大星由良之助は見得を切る大黒、敵方に内通し、密書を盗み見る斧九太夫は鬼、遊女になった足軽の妹おかるは、頭が長大すぎて2階にいるのがバレた福禄寿といった具合です。忠臣蔵の舞台装置や役柄に精通した紀楳亭ならではの作品です。

 仏画が中心だった大津絵は、17世紀末以降、人間の奢りや愚かさへの風刺から教訓絵、戯画へと変わっていきます。最盛期は18世紀前半で、画題は120を数え、中でも「鬼念仏」は一番人気でした。勧進僧のフリをして布施を乞う鬼は、偽善者のシンボル。なぜか幕末には幼児の夜泣き止めとして使われました。

(聞き手・牧野祥)


 《大津市歴史博物館》 大津市御陵町2の2(問い合わせは077・521・2100)。午前9時~午後5時。忠臣蔵七段目図は24日までの「大津絵」展、鬼念仏は常設展で。330円。原則(月)休み。

学芸員 横谷賢一郎

学芸員 横谷賢一郎

 よこや・けんいちろう 専門は日本近世絵画。1993年から現職。「大津絵」展を担当。趣味で書画や陶磁器、アールデコの工芸品を収集。

(2019年11月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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