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青銅器 根津美術館

王の酒器を守る神話の怪物

重要文化財・饕餮文方盉 3器 殷時代後期・紀元前13~同12世紀 高さ71.2~73センチ

 中国の殷周時代(紀元前17~同3世紀ごろ)、祭祀儀礼に使う青銅器が盛んにつくられました。神格化された動物や渦巻きなどの文様が細部まであしらわれているのが特徴です。

 1941年開館の当館は、実業家の根津嘉一郎(1860~1940)が集めた日本と東洋の古美術を中心に、現在7千点以上を所蔵しています。中でも、河南省安陽市侯家荘の殷代王墓出土の伝承品を含む青銅器群は注目のコレクションです。

 青銅器は食器や楽器のほか、酒器が多く製作されました。祭祀の中で神酒を飲むことが重要だったからでしょう。「饕餮文方盉」は、酒をついだり酒と香料を攪拌したりする注酒器です。高さ71~73センチほどと注酒器としては類を見ない大きさで、しかも3器セットとめずらしいことから、殷王の所有物だったと考えられます。持ち手には「右」「中」「左」と祭祀の際の配置を示す銘が入っています。

 各頂部と脚の付け根には、動物の部位を組み合わせた饕餮という神話の怪物が施されています。饕餮は大食漢の悪鬼で、悪霊すら食べてしまう魔よけの象徴として流行しました。3器は饕餮の角や表情が異なり、持ち手にも虎、羊角獣、霊鳥と別々の動物があしらわれています。

 「饕餮文爵」は個人的に好きな作品です。爵とは、酒を温める器のこと。身分によって神酒を受ける順序や量が違ったことから、一説では爵位の語源とも言われています。いつ見てもきれいな形だなと思います。

(聞き手・星亜里紗)


 《根津美術館》 東京都港区南青山6の5の1(問い合わせは03・3400・2536)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。(月)((祝)の場合は翌日)、展示替え期間、年末年始休み。1300円(特別展)。2件は常設展示。

根津美術館

理事長兼館長 根津公一

 ねづ・こういち 根津美術館のコレクションの礎を築いた根津嘉一郎の孫。東武百貨店の経営に携わるとともに、2002年から現職。

(2019年12月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)