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闇の表現 宇都宮美術館

独自に編み出した黒の世界

高橋由一「中州月夜の図」1878年 油彩
高橋由一「中州月夜の図」1878年 油彩
高橋由一「中州月夜の図」1878年 油彩 丑久保健一「大谷考―指をみつめる」2000年 ヒノキ、ウレタン樹脂、墨汁、木工用接着剤

 主に20世紀以降の美術品を所蔵する当館。今回、6500超のコレクションから「闇」を表現した2作品を選びました。西洋では17世紀以降、光と闇の強烈なコントラストを用いたテネブリスム(暗闇主義)が流行しますが、栃木にゆかりのある近現代の日本人2人は独自の方法で「闇」を表しました。

 「中州月夜の図」は、佐野藩士の長男として生まれた高橋由一(1828~94)の油彩画。幼い頃から絵筆を握り、やがて西洋の石版画と出会うと、その写実的な描写に感銘を受けます。限られた資料を見て技術を磨き、40代には画塾を創設するなど洋画普及にも努めました。

 画中に目を凝らすと、水面に舟が浮かび、人の姿も確認できます。それまでの日本の絵画は、月や蠟燭(ろうそく)で記号的に夜を表すことが多かったのですが、由一は黒や褐色系絵の具の微妙な変化で視覚的に表現しました。月明かりに照らされた情景にも趣があります。留学経験のない由一が西洋の表現形式に挑んだ、画期的な作品といえます。

 一方、「大谷考―指をみつめる」は、彫刻家丑久保健一(1947~2002)の作。宇都宮市内の大谷石採石場跡の地下空間の暗闇に身を置いた感触を生前、「ドロリとした墨汁が、身体の穴という穴から進入」したと語っています。採石場の立坑(たてこう)から差し込んだ一筋の夕日が、かざした自身の指の間を透過した様を表したと思わせる本作からは、暗闇の恐怖とともに光の貴さも感じられます。

(聞き手・尾島武子)


 《宇都宮美術館》 宇都宮市長岡町1077(問い合わせは028・643・0100)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。2点は2月24日まで展示。310円。2月24日を除く(月)休み。

学芸員 藤原啓

 学芸員 藤原啓

 ふじわら・けい 2013年から現職。専門はフランス近代美術。2月24日まで開催の「コレクション展 作品の『むこう』へ/作品の『こちら』へ」を担当。

(2020年1月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)