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彫金 燕市産業史料館

金属器を彩る職人の精緻な技

市川正美「象嵌鉄合子」 高さ6・4×直径8センチ 2004年
市川正美「象嵌鉄合子」 高さ6・4×直径8センチ 2004年
市川正美「象嵌鉄合子」 高さ6・4×直径8センチ 2004年 西片巳則「彫金花瓶 椿」 高さ28×直径14センチ 1986年

 金属産業が盛んな新潟県燕市。その歴史は、江戸初期の農家の副業だった和釘づくりにさかのぼります。当時、この辺りは信濃川の水害が多発したため稲作に向かず、農家は困窮を極めました。そこへ江戸から鍛冶職人が招かれ、火事が多い江戸での建物の建て替えに必要だった和釘づくりの技術を伝えます。江戸中期に隣の弥彦村に銅山が開坑すると、金づちで打って成形する鎚起銅器やキセルづくりの発展につながりました。

 高度経済成長期には、機械を導入した大量生産が主流に。先人の技術や産業の歴史を残そうと1973年に設立されたのが当館。コレクターからの寄託品を含めた2万点以上の金属製品、工芸品を収蔵しています。

 燕市では鎚起銅器などを装飾する彫金の技術が発達しました。「象嵌鉄合子」は1ミリ幅に10本以上の刻み目を縦横斜めに布目のように入れ、金箔や銀箔を埋め込む布目象嵌という技法を使っています。細い均一な線を彫るため、作者の市川正美さんは頭部が小さな竹の柄の金づちを自作して使っています。

 「彫金花瓶 椿」は、銅製の花瓶にスズを塗って焼いてから、彫金を施しました。文字を彫る時に用いる片切彫りという技法で、毛筆のような筆致を表現しています。片切彫りも書道のように「二度書き」禁止。職人の技術の精緻さがうかがえます。最後に、硫酸銅と緑青の水溶液で煮込むと銅の赤色が増し、ツバキがより鮮やかに浮かび上がります。

(聞き手・伊藤めぐみ)


 《燕市産業史料館》 新潟県燕市大曲4330の1(問い合わせは0256・63・7666)。午前9時~午後4時半。400円。(月)((祝)(休)の場合は翌日)、(祝)の翌日、年末年始休み。

学芸員 桑原美花

 学芸員 桑原美花

 くわばら・みか 新潟県出身。2016年から現職。企画展「松浦靖 世界のスプーン展 第6章」などを手がける。

(2020年3月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)