日本画に特化した当館は、昭和以降に生まれた作家の作品の展示・収蔵を目的に、2012年にオープンしました。開館の翌年から始まったのが「桜花賞」展です。当館の収蔵作家が推薦した若手日本画家の30人が「桜」というモチーフをテーマに新作を出品します。8回目の今展で大賞に選ばれたのがこの松原亜実さんの「春麗」です。
桜花賞出品のためにモチーフを探していたところ、ふと心が引かれ、足を止めたという東京・上野のお寺のしだれ桜。おぼろ月を背景に、風にそよぐ桜がリアルに表現されています。特徴は、和紙ではなく絹に描かれているところ。絹は透けるほど薄いので、表面だけではなく裏面からも描くことができ、奥行きを表現できる一方、作品として額装した後の完成形を想像しながら、薄く透けた状態で描かなくてはならないので、高い技術が必要なんです。
また、「桜花賞」とは別に展示している中島千波さんの「櫻雲の目黒川」も見どころの一つ。「桜の画家」として名高い中島さんに当館周辺の目黒川を描いてもらった屏風で、抜けるような青空と満開の桜に、赤い「中の橋」が印象的です。松原さんの静かさを感じさせる夜桜とは対照的な華やかさがありますね。
ちょうど目黒川を彩る桜が満開になるシーズンに合わせて、当館は桜をモチーフにした作品で埋め尽くされます。様々な作家のそれぞれの表現が楽しめますので、屋外の散策とあわせて足を運んでいただきたいですね。
(聞き手・白井由依子)
《郷さくら美術館》 東京都目黒区上目黒1の7の13(問い合わせは03・3496・1771)。午前10時~午後6時(入館は30分前まで)。2点は5月24日まで展示。500円。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。
学芸員 依田恵 よだ・めぐみ 東京造形大学グラフィックデザイン専攻卒業。2017年から現職。同館で学芸、広報PR、デザインを担当。 |