「建築」という日本語は、「建物」「建設」の意味に理解されますが、英語の「アーキテクチャー」は本来、構成原理や設計思想も含む広い概念です。当館は、建築ミュージアムとして世界の有名建築の模型110点超を展示収蔵。民族学や自然科学の資料も展示し、多様なアーキテクチャーを探究、提示しています。
「建築の記憶」は、当館の連続企画「建築博物教室」のために制作したもの。国内外の35建築を、ほぼ古い順に下から組み上げた立体コラージュです。ファサード(正面外観)や内部空間、骨格構造など、特徴的な部分を抜き出して300分の1の共通縮尺で構成しています。
写真正面の最下層は、紀元前5世紀前後の古代ペルシャの都市ペルセポリスの「百柱の間」。その上方には1199年上棟の東大寺南大門の大仏様構造。最上層には近代建築を代表するル・コルビュジエのサヴォア邸があります。古代から現代にかけて、物質的には重厚なものから繊細なものへ、空間的には閉じたものから開かれたものへ、という変化の流れが見えるように思います。建築史の網羅ではなく、私個人の記憶に残る建築の集積。博物館の基本的役割である「分類蓄積」から、いかに新しいものを作れるか、という試みの一つです。
東大の前身である旧東京医学校本館(1876年築)を移築した当館は、施設そのものが歴史遺産であり、建築の実物展示でもあります。西洋の様式と日本の伝統技術が共存する擬洋風建築から、新しい文化を受け入れた明治初期の状況がよく分かります。
(聞き手・安達麻里子)
《東京大学総合研究博物館小石川分館》 東京都文京区白山3の7の1。
午前10時~午後4時半(入館は30分前まで)。
「建築の記憶」は常設展示。
原則(祝)(休)を除く(月)(火)(水)休み。臨時休館中。
問い合わせは050・5541・8600。
東京大学総合研究博物館特任教授 松本文夫 まつもと・ふみお 2015年より現職。専門は建築学で、小石川分館を中心にした展示企画等を担当。「次世代ミュージアムのかたち」が研究の基底をなすテーマ。 |