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江戸時代の化粧道具 紅ミュージアム

おしゃれを超えた役割も

江戸時代の化粧道具 紅ミュージアム
右奥「色絵窓絵水仙文段重」 直径7・6×高さ10・2センチ。中央「染付桜文段重」 6×8・8センチ。左奥「染付微塵唐草文段重」 9・6×14・2センチ いずれも江戸時代後期
江戸時代の化粧道具 紅ミュージアム 江戸時代の化粧道具 紅ミュージアム

 身分の高い人しかしていなかった化粧が、庶民にも広まったのは江戸時代です。文政8(1825)年創業の紅屋・伊勢半本店が母体の当館では、今も変わらず続けている紅の製法とともに、日本の化粧史を紹介しています。400点ほどの展示品から、化粧道具の変化も見てとれます。

 おしろいの容器、「白粉三段重(おしろいさんだんじゅう)」は華やかな色絵も多く、有田焼の磁器などで作られました。当時のおしろいで人気があったのは鉛白(えんぱく)です。鉛なので体によくありませんが、きれいに仕上がり、安く手に入ったからでしょう。美容の指南書「都風俗化粧伝(みやこふうぞくけわいでん)」に『白粉をとくことを第一とすべし』とあるように、水でよく溶くことが大切でした。三段重の一番下、底が深い段に水を入れ、上の2段はそれぞれ、おしろい入れと、水とおしろいを溶き合わせるために使いました。写真左奥の「微塵唐草文(みじんからくさもん)」は、初代歌川広重が描いた化粧をする女性の浮世絵にもみられ、はやりの文様だったとわかります。

 江戸時代の庶民の女性は、おしゃれや身だしなみのためだけに化粧をしていたのではありません。結婚するとお歯黒をして、出産すると眉をそり落とす。女性の社会的な立場がひと目でわかる、特別な役割を果たしていたのが「黒」の化粧です。

 お歯黒は、かまどの下などで発酵させた「お歯黒水(みず)」を使って行います。中身は米のとぎ汁、酢、酒、水あめ、さびた釘など独自の配合。これを「鉄漿沸(かねわかし)」で沸騰させて筆にとり、タンニンを含む「五倍子粉(ふしのこ)」と交互に歯に塗ると、鉄と結合して黒くなります。結婚が決まると、隣近所7軒からお歯黒水を分けてもらう「初鉄漿(はつかね)」の儀式でお祝いしました。

(聞き手・斉藤由夏)


 《紅ミュージアム》 東京都港区南青山6の6の20
 (問い合わせは03・5467・3735)。
 午前10時~午後6時(入館は30分前まで)。
 無料。
 (祝)(休)を除く(月)休み。
 6月30日まで臨時休館中。

井上美奈子

 学芸員 井上美奈子

 いのうえ・みなこ 自治体の埋蔵文化財調査担当を経て、2011年に伊勢半本店入社。前職で近世考古学に携わり、江戸時代の化粧道具に関心を持つ。伊勢半の社史調査も担当。

(2020年6月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)