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製紙の歴史 紙の博物館

文明開化の工場 原料は「ぼろ」

製紙の歴史 紙の博物館
製紙の歴史 紙の博物館 製紙の歴史 紙の博物館

 当館がある東京・王子は、明治8(1875)年に渋沢栄一の主導で日本最初期の近代的な製紙工場「抄紙(しょうし)会社」(後の王子製紙王子工場)が開業した土地です。当時は文明開化とともに新聞や紙幣など、大量生産による洋紙の需要が高まった時代でした。当館は戦前の王子製紙の資料を収めた「製紙記念館」として誕生、名称変更や移転を経て今年で70周年を迎えます。

 「王子製紙会社略図」は77年に制作された開業当初の工場の様子を伝える銅版画です。現在、紙の主な原料は木材パルプですが、当時は「ぼろ」、つまり着古した衣服でした。図の右下はぼろを細断する「破布(はふ)場」や、ぼろを煮て繊維を取り出す「破布煮釜」の様子、中段は紙をすく抄紙機です。機械設備の動力は蒸気機関で、当時の機械図面と比べると細部まで忠実に描かれているのがわかります。

 日本で紙が庶民に流通するようになったのは江戸時代です。多くの藩が紙作りを奨励しました。一方で生産方法は産地の秘密とされ、たとえば、ある産地では村内でしか結婚が認められないなど、厳しく管理されていました。

 そんな時代に出版された画期的な本が「紙漉重宝記(かみすきちょうほうき)」。寛政10(1798)年に石見(今の島根県)の紙問屋、国東治兵衛(きにさきじへえ)が絵入りで製紙法を紹介しました。当館では理解の助けにと、内容を表した和紙の人形を展示しています。原料のコウゾを蒸したり、紙をすいたりする人形の姿からは、人々の息づかいが伝わるようです。

(聞き手・高木彩情)


 《紙の博物館》 東京都北区王子1の1の3
 (問い合わせは03・3916・2320)。
 当面の間は午前10時~午後3時(入館は30分前まで)、日月休み。
 400円。2点は常設展示。

平野祐子

 学芸員 平野祐子

 ひらの・ゆうこ 2003年から勤務。近年では「木版画の美 今に生きる職人の技」展、「紙のおもちゃ すごろく・かるた」展を担当。

(2020年6月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)