山好きだった亡父・水上巌が37年前、北アルプスのふもとで山の絵を鑑賞してほしいという思いから開いた小さな美術館です。山に入って描く山岳画やふもとから描いた風景画など約200点を収蔵しています。
日本山岳画協会の創立会員の一人、足立源一郎(1889~1973)の作品は48点。見た人からは、その画面が意外に小さいことに驚く声も聞こえます。それは足立が、画材を抱えて山に登り、現場でパレットを広げ、仕上げることにこだわった証しです。
「北穂高岳南峰」は、切り立った岩峰を描いています。その場に立った人にしかわからない空気、風、においが伝わってくるようです。岩肌の複雑な色合いはよく見ると、大ぶりなタッチ。山の瞬間を捉えようと、ナイフに絵の具をとり、素早くキャンバスに走らせたことがうかがえます。足立は20~30代で渡欧し、人物画や風景画を手がけていました。帰国後、山を訪ね始め、生涯かけてその姿を描きました。本人は「風景画を描くのでなく、山の肖像を描いているじゃないかといわれる」という言葉を残しています。
英国のダイアナ元妃も好んだという洋画家、吉田博(1876~1950)は、木版画「日本アルプス十二題 穂高山」で穂高を捉えました。同じ山でも描く人や場所が変わると、表情が変わる。そんな山の豊かさを伝えていきたいです。
(聞き手・井上優子)
《安曇野山岳美術館》 長野県安曇野市穂高有明3613の26(問い合わせは0263・83・4743)。
午前10時~午後4時。
600円。
2点は当面常設。
8月は無休。
(祝)を除く(木)休み。
12月11日~3月9日冬季休館。
副館長 岩佐峰子 いわさ・みねこ 1983年の開館当初から運営に携わり、2013年からは展覧会企画も。「熊谷榧(かや)・油絵小品展」(9月30日まで)を担当。 |