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天童広重 広重美術館

藩に頼まれ肉筆画に腕ふるう

天童広重 広重美術館
㊨「吉野之桜」(双幅のうち右幅)㊧「龍田川之紅葉」(左幅) いずれも絹本着色 1849~51年ごろ
天童広重 広重美術館 天童広重 広重美術館

 初代歌川広重(1797~1858)は晩年、多くの肉筆画を描いたといわれ、その中には出羽国(現在の山形県)の天童織田藩の求めで制作した「天童広重」「天童物」と呼ばれる作品群もあります。

 財政難にあった天童藩が、献金の褒美や借金返済の代わりとして豪商らに与えたもので、広重は江戸勤めの藩士らと交遊があった縁で依頼に応じました。その数200幅は下らないと推測されますが明治以降、県外、海外に流出し、現在天童市近郊で確認できるのは22幅しかありません。

 生誕200年にあたる1997年に開館した当館が随分と探し回った末ようやく手に入れたのが、「吉野之桜」と「龍田川之紅葉」の双幅。肉筆画ならではの淡泊な色合いが非常に繊細で品のある作品です。

 天童広重はほとんどが名所を描いたものですが、これも代表的な奈良の名所の桜と紅葉を描き、春と秋を対比させています。構図も左右で川の流れ、筏が進む方向が異なり、視線が中央に集まります。オーソドックスな描き方ですが、こうした対比や構図のアイデアが心憎いというか、大変上手な絵師だなと感じます。

 「名所江戸百景 深川洲崎十万坪」は天童物ではなく、広重最晩年の揃物の一つ。西洋の遠近法を採り入れ、奇抜な構図ではるかに筑波山を望むスケールの大きな世界を描いています。にぎやかな江戸のイメージとは対照的な、静寂さが印象的です。

(聞き手・尾島武子)


 《広重美術館》 山形県天童市鎌田本町1の2の1(問い合わせは023・654・6555)。
 当面は午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。
 11月末まで350円。
 原則(火)休み。
 「吉野之桜」「龍田川之紅葉」は10月2~26日展示予定、「深川洲崎十万坪」は9月28日まで展示中。

副館長 梅澤美穂

 副館長 梅澤美穂

 うめさわ・みほ 開館当初から学芸員として勤務し、2014年から現職。「天童広重」の調査、考察をライフワークとしている。

(2020年9月15日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)