県出身の美術家・奈良美智(1959~)の作品約170点を所蔵する当館は、隣接の三内丸山遺跡に着想した設計。発掘現場の堀のような空間の一部に合わせて制作を依頼したのが「あおもり犬」です。
下半身が埋まっているのは、発掘のイメージから。ずっとここにいて、今やっと発見されたところでしょうか。当初から奈良が希望し数年後に追加された花壇のえさ皿や、秋田犬をもじった題名もウィットに富んでいます。左右が微妙に異なる目や耳、柔らかい輪郭線。自作の約1メートルの原型のニュアンスを保ち、職人の手を介し拡大する作業は苦労したようです。
絵の背景や立体に白をよく使う奈良の原風景は、冬の青森の一面の雪景色。真冬、コック帽のように頭に雪をのせたあおもり犬は当館の風物詩です。吹雪の時はスノードームのよう。雪が降る中じっと座り続ける姿を見ていると、孤独を共有できるような気がします。
つり目の子どもが代表的なモチーフの奈良作品のルーツは、想像で人形や動物と遊んだ鍵っ子の幼少期にあります。犬を表現するのも、この頃飼えずに山に置き去りにした子犬への思いから。こうしたスタイルは、29歳で渡独後に確立しました。意思疎通に苦労した留学中の孤独が幼少期の記憶を呼び起こし、創作の源泉となったようです。
「般若猫」は、実は猫好きの奈良が作風を確立する前に描いたもの。現在とは色使いや筆致がまったく異なる珍しい作品です。
(聞き手・山田愛)
《青森県立美術館》 青森市安田近野185(問い合わせは017・783・3000)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。コレクション展は510円。第2・4月(祝の場合は翌日)と年末年始休み。
高橋しげみ たかはし・しげみ 青森県出身。専門は近現代美術・写真。開館準備期を含め1999年から現職。奈良美智作品を担当。 |