盆栽を学術的に研究し、情報発信する役割を持つ当館は、所蔵する125鉢の中から毎週展示替えをして、いちばん見頃の約70鉢を屋内と庭園で披露しています。花や実をつけ、葉が色づくなど四季折々で移り変わる自然の営みを、盆栽を通して一年中感じることができます。
一般の方も盆栽に親しんでもらおうと、初めて公募で銘をつけた黒松が「獅子の舞」です。根元からぐっと大きく曲がった太い幹、樹齢を重ね陰影を帯びた亀甲模様の樹皮、順序よく配された枝ぶりは、能舞台の鏡板に描かれた松のよう。落葉樹の葉が枯れ落ちた冬場、葉が青々とした生命力あふれる黒松には、毎年ハッとさせられます。
根、幹、枝、葉と全てに人の手が加わっている盆栽ですが、それを感じさせてはいけません。枝先を上に向け短く整えた葉も、まるで最初からそうであったごとく自然に見えるのは、職人芸があってこそです。
盆栽は「都市の芸術」なのだと思います。自然が身近にあればそれを見ればいい。かなわないからこそ山水の世界に憧れ、自ら育てるのです。額縁の絵画と違い、持ち主の性格までも表現される生きるアート。知見を蓄え自然界に目を向けた壮年世代にふさわしい、癒やしの文化芸術だと私は考えています。
野梅は一輪でも花が咲くとふわりと香りがして、寒風の中で春の始まりを告げてくれます。黒い樹皮の色と対比される清らかな白い花が邪気をはらい、明るい一年となることを願ってやみません。
(聞き手・斉藤由夏)
《さいたま市大宮盆栽美術館》 さいたま市北区土呂町2の24の3(問い合わせは048・780・2091)。午前9時~午後4時(3月~10月は4時半まで。入館は30分前まで)。310円。(木)休み。
事業係長・学芸員 田口文哉 たぐち・ふみや 博士(芸術学)。開館準備中の2009年から同館学芸員。盆栽の歴史や文化を伝える展覧会企画や講演会なども積極的に行う。 |