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地歌舞伎衣装 美濃歌舞伎博物館相生座

芝居根付く土地柄 熱気伝える

地歌舞伎衣装 美濃歌舞伎博物館相生座
「伽羅先代萩」衣装 黒繻子地金繍竹に雀文 昭和初期
地歌舞伎衣装 美濃歌舞伎博物館相生座 地歌舞伎衣装 美濃歌舞伎博物館相生座

 江戸時代、農民が演じる地歌舞伎は全国的に禁じられていました。中山道が貫き交通の要衝である美濃はその例外で、街道整備などの苦役の代償として黙認され、繁栄しました。

 2棟の芝居小屋の一部を移築、合体した当館は地歌舞伎を秋に定期上演。江戸期から伝わる衣装や小道具など約5千点の一部を展示しています。

 仙台藩伊達家のお家騒動を題材にした「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」の登場人物・政岡の衣装は、藩の家紋のモチーフである竹とスズメを用いるのが約束ごと。実子を犠牲にしながら主君を守る政岡の耐え忍ぶ心情を、雪をかぶったササの葉で表しています。
 昭和初期に作られた本作では竹の幹が太く、南天の実がつけ加えられています。前の時代にはない特徴で、時代によって異なるデザインの衣装を公演ごとに使い分けています。

 「黒天鵞絨地金繍龍門(くろびろうどじきんしゅうりゅうもん)に龍乗り貴人文」は花魁(おいらん)が着る打掛(うちかけ)。大きな柄、凝った刺繍(ししゅう)に加え、龍門の窓の部分に鏡をつけるなど当時最先端の素材や技法が目を引きます。派手好みの上方のもので、こうした衣装が残るのは、東西の中間に位置する美濃らしさと言えます。

 2点を含め多くの衣装は、別布に刺繍した柄をアップリケのように縫い付けています。太い糸をとじ糸で留める駒刺繍を多用したり、柄の下に綿を入れたりしているのは、舞台で映える立体感を出すための工夫です。

 当館は古い衣装を手本に新調する活動もしています。同じ材料がなく、現代人の体格に合う衣装づくりは試練ですが、先人の歌舞伎熱と知恵を、忠実に伝えたいと思っています。

(聞き手・鈴木麻純)


 《美濃歌舞伎博物館 相生座》 岐阜県瑞浪市日吉町8004の25(問い合わせは0572・68・0205)。午前10時~午後4時。要予約。300円。原則(月)休み。

おぐり・さちえ

館長 小栗幸江

 おぐり・さちえ 創立者の父・克介さん(故人)の後を継ぎ、1999年から現職。役者や裏方も務め、美濃歌舞伎子ども伝承教室では後進の育成にあたる。

(2021年2月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)