当館は、私が50年以上にわたり、インドを中心に世界各地で収集した染織品を展示しています。今回はインドの布に魅せられた原点でもある、北西部の乾燥地域の品を紹介します。
パキスタンと接するラジャスタン州の州都ジャイプールは、「風の宮殿」などマハラジャ(藩王)が治めた時代の文化を色濃く残す町。様々な染め技法が盛んな地域でもあります。
反物のようなターバンの布は、波を意味する「ラハリア」と呼ばれる巻き絞り染めです。薄手木綿の布の四隅を持ってピンと張り、端から斜めに巻いてロープ状にします。防染部を糸でしっかりくくって染めると、斜めのストライプ柄になります。布を巻く前に縦に折りたたんでおくとジグザグの波紋に。巻いてくくって染める、を色の数だけ繰り返します。染料は自然の植物を使い赤や黄色、ピンクの暖色はヒンドゥー系、藍色はムスリム系の貴族に好まれたそうです。
約17メートルもある布ですが、頭に巻くと文様は少ししか見えません。高度な技術が必要で手間がかかるのに、ぜいたくな使い方ですよね。権威を示す意味も含め、美しいものを身近に置きたいというマハラジャたちのモチベーション、センスがあったからこそ、この街の職人たちの技術が育ったのだと思います。
スカート(ガーガラ)は、ラハリアで染めた布24枚を縫い合わせたもの。支配階級の女性が着用したと思われます。技術に裏付けられた幾何学文はまさに現代アートです。
世界には、まだまだ知られていない美しい手仕事が残されています。ぜひ目で見て、確かめてみてください。
(聞き手・吉﨑未希)
《岩立フォークテキスタイルミュージアム》 東京都目黒区自由が丘1の25の13の3階(問い合わせは03・3724・5407)。午前10時~午後5時。500円。2点は「インド沙漠(さばく)の民と美」(3月13日までの(木)(金)(土))で展示。予約優先。
館長 岩立広子 いわたて・ひろこ 染織工芸研究家。1965年に中南米で布に出会って以来、インドを中心に手仕事による染織品を収集。2009年にミュージアムを開館した。 |