日本画を専門に約1800点を所蔵する当館は、祖父・山崎種二が創立して今年で55年。2009年に現在地に移転後、四季の花をモチーフとした絵画の展示を隔年で企画しています。10年前、東日本大震災の翌月も悩んだ末に開催、多くの方に喜んでいただき、花の絵画が持つ癒やしの力を実感しました。
画家たちと交流を深めながら日本画を集めた祖父は横山大観と一番仲がよく、「世の中のためになることをしたらどうか」という大観の言葉が美術館をつくる後押しになったといいます。大観にはいつでも描いてもらえると譲ってしまった作品も多く、収蔵品は40点ほどです。
大観の「春朝(しゅんちょう)」は、本居宣長の和歌《敷島の やまと心を人とはば 朝日に匂ふ山さくら花》を念頭に、山桜と朝日を日本の象徴として描いたと考えられます。朝日に照らされた、派手さのない山桜を美しく思う心に日本人らしさを映したのでしょう。枝葉の間から背景が見える余白の美も情緒的です。
背景は金泥(きんでい)でグラデーションを付け、明けの空のかすみがかった様子を表しています。花の色の濃淡も表情豊か。地面には小さなたんぽぽが顔をのぞかせるなど、のどかで明るい春の訪れが感じられますね。
奥ゆかしい山桜とは対照的に華やかさと高貴さで「百花の王」と呼ばれる牡丹(ぼたん)は、画家たちにとって特別な題材。川端龍子の「牡丹」は、ふっくらした花びらの質感を輪郭線をとらずにかたどるなど、高い技術力が目をひきます。深い緑色の葉が花の美しさを一層引き立て、枝まで入れた力強い構図にも独特の感性が生きた作品です。
(聞き手・斉藤由夏)
《山種美術館》 東京都渋谷区広尾3の12の36。午前10時~午後4時(土、日、祝は5時まで。入館は30分前まで)。1300円。2点は10日から開催の「百花繚乱(りょうらん) 華麗なる花の世界」で展示。原則(月)休み。問い合わせは050・5541・8600。
館長 山崎妙子 やまざき・たえこ 2007年から現職。美術を通じて社会、文化に貢献するという創立以来の理念を引き継ぎ、日本画の魅力を伝える事業を行う。 |