キッチン用品から高速道路の防音壁まで幅広く活躍した工業デザイナー柳宗理(1915~2011)。金沢美術工芸大で約50年教鞭をとった縁で、関係資料約7千点が大学に寄託されました。
当研究所は約200点を常設展示していますが、作品にキャプションをつけていません。柳はスケッチをせずに手で物を作って考えるデザイナーだったので、来館者にも情報を得るより前に物と対話して欲しいという思いからです。
代表作「バタフライスツール」も紙を切ったり曲げたりする手遊びから生まれました。チョウが羽を広げたような軽やかで柔らかな曲線は、座面と脚を一体成形した合板製。二つを金具でつないでいます。
薄い木材を重ねて接着し、型にはめて加工する成形合板は米国で発展した素材です。柳は戦後、デザイナーのチャールズ・イームズを訪問した際に知りました。デザインを進めるうちに、曲面を作ることで合板の強度が増すことに気がつき、形態のイメージを更にふくらませていきました。
当時の日本では成形合板の製品は普及しておらず、仙台にあった国の産業工芸試験所の乾三郎と、山形の家具メーカー天童木工と3者共同で開発。約3年を経て完成させました。
1956年に「バタフライスツール」と同時に発表された生地デザインが「エダ」です。簡明な形が繰り返される模様は、カーテンとして第1回柳工業デザイン研究会展の会場を飾りました。民芸運動で知られる宗悦の長男として生まれ、民芸品に囲まれて育った柳は「用の美」を強く意識していました。生活する上で違和感のない、生活を支えるものとしてのデザインを生み出そうとしたようです。
(聞き手・伊藤めぐみ)
《金沢美術工芸大学 柳宗理記念デザイン研究所》 金沢市尾張町2の12の1(問い合わせは076・201・8003)。午前9時半~午後5時。無料。(祝)を除く(月)休み。
学芸員 頓宮佑佳 とんぐう・ゆか 金沢美術工芸大工芸科卒業。同大美術工芸研究所勤務などを経て、2020年4月から現職。 |