旧大蔵省専売局が戦前に集めたたばこ関連品を中心に収蔵する当館は、たばこ盆だけでも700点以上を所蔵しています。
たばこ盆はキセルのほか、今でいう灰皿などの道具をまとめたもの。香道で使われる香盆を転用したのが始まりと考えられています。
日用品のような位置づけであまり研究が進んでいませんが、資料からは17世紀半ばにはあったことがうかがえます。
お盆型だけではなく、升や箱など形も材質も多種多様。
中でも凝った意匠が施されているのが「牡丹蒔絵手付きたばこ盆」です。紀州徳川家14代藩主に嫁いだ伏見宮家王女倫宮の婚礼道具で、後に形見分けで娘に譲られたと添書にあります。
見どころの一つが銀装飾。上部の三方を囲む御簾は細い銀の棒を赤い糸でつなぎ、側面や背面の房飾りも銀製で、やわらかな質感が表現されています。左側に見える炭火を保つ「火入れ」のフタは、銀板をたたいて椀形に成形。花弁や葉脈の細かな表現や、透かし彫りにも高い彫金技術がうかがえます。
本体の牡丹とチョウには「金貝」という技法で金とスズの薄片が貼られています。黒い部分はスズがはがれ落ちてしまったのですが、剥落のお陰で本来は見えない部分が現れ、花弁の筋の立体感を蒔絵で出すというぜいたくな処理が施されていることが分かりました。
夕顔の実を使った「夕顔蟋蟀蒔絵たばこ盆」は、柳沢一抱(?~1934)の手によるもの。元からなのか細工をしたのか分かりませんが、中央下の小さな虫食い穴からヒョコッと顔を出したコオロギに独創性を感じます。夕顔の葉は変塗でザラッとした感触を出しています。葉脈の細い線やコオロギの立体感が見事ですね。
(聞き手・小森風美)
《たばこと塩の博物館》 東京都墨田区横川1の16の3(問い合わせは03・3622・8801)。午前11時~午後5時(入館は30分前まで)。2点は「シブい工芸 たばこ盆」(7月4日まで)で展示。100円。原則(月)休み。
学芸員 西田亜未 にしだ・あみ 2008年から現職。専門は日本近世史。工芸展「伊達男のこだわり」、浮世絵展「役者に首ったけ!」などを企画。 |