独自の発掘成果を含め古代メソポタミア、エジプト、ペルシャなどの歴史・文化資料を収集・研究する当館の収蔵品の中で、コインは小さくても多くの事実を伝え、想像をかき立てる魅力的な存在です。
紀元前7~6世紀ごろ現在のトルコ西部で栄えたリュディア王国のエレクトラム貨は、世界最古のコインの一つと言われます。金と銀の合金製で、見た目が琥珀に似ているため、ギリシャ語で琥珀を意味する「エレクトロン」から名がつきました。琥珀をこすると静電気を起こすことから、電気を表す「エレクトリック」という語も琥珀に由来します。最古のお金と最新の「電子(エレクトロニック)マネー」は同じ語源を持っています。
このコインには、リュディア王の紋章ともされるライオンが刻まれています。発行者がコインの価値を保証するという、現代まで続く貨幣の概念が成立していたことを表しています。
コインを宣伝媒体としても使ったのがマケドニアのアレクサンドロス大王です。ライオンの頭をかぶるギリシャ神話の英雄ヘラクレスの子孫であるかのように自身の肖像を刻印。兵士への報酬として使われ、各地へ広まっていきました。
美女として名高いクレオパトラ7世は肖像があまり残っていないのですが、30代の彼女の姿が刻まれたコインが現存します。知的な横顔は実際の面影に近いかもしれません。
古代のコインはどこでどのように見つかるかも興味深いところです。つぼに入ってまとまった量が発見されることがあり、戦乱の時代に人々がためたのかもしれません。コインを手にした人を想像をしながら鑑賞するとより一層楽しくなります。
(聞き手・栗原琴江)
《古代オリエント博物館》東京都豊島区東池袋3の1の4、サンシャインシティ文化会館ビル7階(問い合わせは03・3989・3491)。午前10時~午後4時半(入館は30分前まで)。3点は常設展示。600円。7月17日からは特別展でコインを含め「金銀銅」の魅力を紹介。
研究部長 津村眞輝子 つむら・まきこ 2013年から現職。石見銀山遺跡客員研究員。東西交流美術を研究。「世界の金貨と銀貨」「香りのシルクロード」などを企画。 |